研究課題/領域番号 |
18K19330
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
池田 真行 富山大学, 大学本部, 理事・副学長 (10288053)
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研究分担者 |
今野 紀文 富山大学, 学術研究部理学系, 講師 (50507051)
松田 恒平 富山大学, 学術研究部理学系, 教授 (60222303)
森岡 絵里 富山大学, 学術研究部理学系, 助教 (80756122)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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キーワード | 昼行性行動 / モデル動物 / 脳地図 / カルシウムイメージング / 活動電位 |
研究実績の概要 |
哺乳動物においては、視床下部視交叉上核(SCN)が、体内時計中枢として働くことが知られている。しかしSCNの出力から、どのように動物行動時間の多様性が生まれるのかについては、よく分かっていない。そこで、 本研究では、①ナイルグラスラットの実験系統の確立と繁殖、②脳座標の決定や、脳スライスイメージング実験を行い、昼夜行性の決定に係る神経ネットワークの同定にチャレンジする。また、③ナイルグラスラットに 、Cl-トランスポーター阻害剤を投与し、昼夜の行動パターンに変化がみられるのかについて解析を行う。上記を通して、新たな実験スタンダードとなる昼行性げっ歯動物の系統確立と、昼夜の行動選択メカニズムの解明を行うことを目的に研究を進めている。 今年度は、時計遺伝子(Bmal1,Per1,Per2,Clock)の配列を決定し、正確なプライマー情報をもとに、これらの遺伝子の転写リズムを、SCNおよびその1次投射先である室傍核において解析した。また、海馬についても同様の解析を行った。夜行性のSDラットでは、これら時計遺伝子の転写リズムは、SCNとPVNでほぼ180度逆相の転写リズムを刻むことが知られているが、ナイルグラスラットにおいては、ほぼ同位相で振動することが明らかとなった。さらに、ナイルグラスラットのSCNスライス標本を電気生理学的に解析し、自発発火リズムの解析が可能となった。その結果、発火パターンは明期に高いリズムを示すことが明らかとなった。この点は、SDラットのSCNでの報告と共通性が高いが、ナイルグラスラットのSCNの場合には、明期はじめと終わりに2つのピークを持つ「双峰性」のリズムが内在することが明らかとなってきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の行動リズム解析に引き続き、今年度は、時計遺伝子(Bmal1,Per1,Per2,Clock)の配列を決定し、分子振動に正しくアプローチできるようになった点において大きなブレークスルーがあったと言える。さらに、脳スライス実験で基本的なSCNの自発発火頻度解析が完了したことから、今後これをCa2+イメージング実験へと発展させていく予定である。これにより、神経伝達物質GABAの役割を顕在化させていく。全体計画の中で、赤外線センサーを用いた行動リズムの解析や、時計遺伝子のクローニングと、転写活性リズムの解析、さらには脳スライス実験がスタートしていることから概ね順調に研究が進んでいるといえる。一方で、ブレインマップについては、まだ完成に至っておらず、脳室注入などの実験については、まだ成功率が低い。Cl-トランスポーター阻害剤の投与や、昼夜の行動パターンを決定する室傍核の神経回路への分子生物学的なアプローチを可能とするためには更なる研究が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
現在、世界中で用いられている昼行性げっし動物モデルとして、米国(ミシガン州立大学が実験系統として維持している)ナイルグラスラットのほかに、フランス(ストラスブール大学が実験系統として維持している)スーダニンアングラスラットがある。ゲノム解析において両種は相同性が高いと考えられるため、ストラスブール大学INCI(Etienne Challet)の研究グループとは密接に情報交換を行っている。今後、全ゲノムの解読に向けた国際共同研究を推進する予定である。今年度明らかにした時計遺伝子群の配列も両種で極めて相同性が高かった(論文未発表)。Cl-トランスポーター阻害剤の投与に関しては、腹空など末梢からの投与では利尿作用など実験目的とは別の作用が顕在化するため、中枢への正確な投与が必要となってくる。ブレインマップを完成させ、これを可能にしたいと考えている。また全ゲノムの解読の進捗状況にもよるが、特定のトランスポーターの脳局所でのノックダウンも可能にしたいと考えている。
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