本研究では、細胞数が少なく単純な雌性配偶体形成過程をモデルとして、植物の細胞個性制御機構の解明に迫るために、核動態を直接制御することにより、核の位置情報と細胞個性決定の関係性の解明を目指した。 まず、細胞個性がいつ獲得されているかを解析するために、助細胞機能に必須な転写因子であるMYB98の発現をライブイメージングしたところ、驚くべきことに、細胞化を起こす前の多核体の状態である4核期においてすでに発現が始まっていることが明らかとなった。 そこで4核期における光顕微操作による核動態制御として、前年度は光ピンセットにより直接雌性配偶体内の核を移動できないか試みたが補足することはできなかった。本年度は別の顕微操作として、磁気ピンセットにより核を移動させることはできないかと考え、実験系のセットアップを行った。磁気ビーズを核に局在させるため、核膜のビオチン化を利用するINTACT法を参考に、植物細胞にBirA/NTFを発現させ、核膜をビオチン化を行った。パーティクルボンバードメントによりストレプトアビジン磁気ビーズを導入することで核膜に磁気ビーズをトラップし、磁気ピンセットによる補足を試みようとした。しかし、導入したストレプトアビジン磁気ビーズを効率よく見つけることができず、補足に至らなかった。 また、多核体である4核期において、各位置と遺伝子発現に特徴があるのか、遺伝子発現解析を行うために、光変換蛍光タンパク質mEos4をヒストンH2Bに融合させ、顕微鏡下で解析したい核だけUVを照射し、緑色から赤色に蛍光を変換させた後、核を回収できるよう、実験材料の準備を進めたが、雌性配偶体特異的に十分量発現できるプロモーターの選定に時間がかかってしまい、最終的にはGPR1pro::H2B-mEos4形質転換植物体を確立できたが、最適な色変換の条件を見いだすまでには至らなかった。
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