研究課題
本研究では生殖細胞の性に重要な遺伝子群を効率的に同定するために、CRISPR/Cas9による網羅的スクリーニング系の確立を目指す。メダカの遺伝子は2万以上あり、それら全てを含むgRNA(ターゲット遺伝子にDNA切断酵素Cas9をリクルートするためのRNA)ライブラリーを一つの研究室で作製することは現実的でない。そこで研究室レベルでCRISPR/Cas9によるスクリーニング系を確立するために、(1)候補遺伝子の絞り込み、(2)効率的なgRNAの合成法、(3)候補遺伝子の効率的な機能解析法 の3点について効果的な方法を計画した。(1)については生殖細胞の性決定に重要な分化段階の生殖細胞を精巣及び卵巣からセルソーターにより分取し、RNAseq用ライブラリーの作製、次世代シーケンサーによるシーケンス反応まで行った。現在、発現差解析を進めている。(2)についてはPCR反応のみで、gRNA合成のためのT7プロモーターを含んだDNAテンプレートを作製する方法を開発した。(3)Cas9のmRNAを生殖細胞により効率的に局在させるためにCas9の終止コドン直後にnanos3 3’UTRを挿入したCas9-nos3 3’UTRを作製した。foxl3(生殖細胞の性決定遺伝子)をターゲットとしたgRNAと共に受精卵にインジェクションしたところ、受精後2週間後において80%の個体でFOXL3タンパク質の発現がなくなり、精子形成が確認できた。つまりCas9-nos3 3’UTRを用いることで、生殖細胞における機能解析が効率的に行えることが明らかとなった。またin vivoスクリーニングのために、精子形成が進行するとmCherry2が光るトランスジェニックメダカを作出した。
3: やや遅れている
当初の予定では、30年度に候補遺伝子を絞り込み、gRNAのライブラリー作製を行うところまで進めたかったが、セルソーターによる細胞分取後に抽出したRNAの品質が悪く、細胞分取実験を数回行ったため、RNAseq解析が遅れた。
今後、オスとメスの生殖細胞のRNAseqによる発現差解析を進めることで、生殖細胞の性決定に重要な候補遺伝子を同定し、sgRNAライブラリーの作製を行う予定である。sgRNAは一つの遺伝子に対して3つ作製する。またin vivoスクリーニングができるように卵形成が進行すると緑色蛍光で光るfigla-EGFP, 精子形成が進行すると赤色蛍光で光るshippo1b-mCherry2を交配する。作出したトランスジェニックメダカにgRNAとCas9-nos3 3’UTRをインジェクションし、配偶子形成が進行する孵化後1週間目に蛍光を観察し、オスで卵形成が、あるいは、メスで精子形成が見られるか観察を行う。
RNAseqの解析が遅れたため、gRNAのライブラリー作製が未完成となった。来年度予算は繰越し金と合わせて、ライブライリーの作製、及び、メダカ胚へのインジェクションによるスクリーニングに当てる。
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Developmental Biology
巻: 445 ページ: 80-89
doi.org/10.1016/j.ydbio.2018.10.019
Nature Ecology & Evolution
巻: 3 ページ: 845-852