研究課題/領域番号 |
18K19345
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
田村 智彦 横浜市立大学, 医学研究科, 教授 (50285144)
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研究分担者 |
西山 晃 横浜市立大学, 医学部, 准教授 (80589664)
中林 潤 横浜市立大学, 先端医科学研究センター, 准教授 (80322733)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | 細胞分化 / クロマチン高次構造 / 細胞運命決定 / 確率論的機構 |
研究実績の概要 |
細胞分化においては、系譜特異的な転写因子群がネットワークを構成しながら、各系譜に特徴的な遺伝子発現パターンを確立する。一方、細胞分化は確率論的にも制御されると考えられている。しかしながら、確率論的制御を担う分子機構や、確率論的な分化制御と転写ネットワークによる分化制御との接点は未だ不明である。これまでの予備実験結果から、我々は分化能の獲得には鍵となる転写因子の発現以前に遺伝子-エンハンサー間のループ構造が予め整っている必要があること、さらにその形成には確率論的機構が働くと考え、全く新しい仮説:「細胞運命決定には、ゲノム上の遺伝子-エンハンサー間の『距離』がクロマチン立体構造決定の『確率』に変換される原理が用いられている」を得るに至った。本研究は細胞分化の基本原理として、転写因子による分化プログラムと確率論的機構がどのように出会うのかを解明するために、本仮説を検証する。 2018年度は、細胞分化において早期クロマチンループ構造がどの段階で形成されるか、さらに早期クロマチンループ構造形成が普遍的な事象であるかについて検討を行った。早期クロマチンループ構造の形成時期の評価については、単球分化に必須の転写因子遺伝子をモデル遺伝子として解析を行った。この遺伝子座のループ構造が形成される血球細胞の分化段階を解析した結果、血球分化の極早期に形成されることが判明した。また、早期クロマチンループ構造形成の普遍性の検討では、公共データを用いて細胞分化に伴い活性化される遺伝子について解析を進めた。その結果、複数の細胞系譜においてクロマチンループ構造の早期形成が普遍的であることを示唆する結果を得た。2019年度は、特にループ構造形成の確率論的機構を評価するために新規レポーター細胞を作出して解析を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の実施計画は以下に記述する三段階で構成されており、2018年度は主に1)、2)について解析を行った。 1)造血細胞分化に伴うクロマチン立体構造変化の解析:これまでに我々は単球分化に重要な転写因子遺伝子Klf4の遺伝子-エンハンサー間のループ構造がKlf4の発現誘導以前に形成されていることを見出している。この両領域の近接が血球分化のどの段階で生じるかを検証するために、生体由来の血球前駆細胞のFISH解析を行った。その結果、単球よりはるか上流の骨髄系共通前駆細胞(CMP)の段階で、高頻度に両領域の近接が検出された。このCMPでは、Klf4遺伝子だけでなく、Klf4を誘導する転写因子遺伝子IRF8の発現も誘導されておらず、Klf4遺伝子の遺伝子-エンハンサー間のループ構造は極めて早期に形成されることが明らかとなった。 2)早期クロマチンループ構造形成が普遍的な事象であるかの評価:Klf4遺伝子では、発現誘導以前に形成されるクロマチンループ構造を介して、エンハンサーとプロモーターとが相互に活性化することが判明している。早期クロマチンループ構造の普遍性を評価するために、複数の細胞系譜のPromoter Capture Hi-Cの公共データを用いて、エンハンサーとプロモーターとの近接が認められ、かつ細胞分化に伴い新規に活性化される遺伝子を抽出した。これらの遺伝子のエンハンサーとプロモーターのヒストン修飾を解析した結果、約6割においてKlf4遺伝子と同様のエンハンサーとプロモーターとの相互活性化が認められ、早期クロマチンループ構造形成の普遍性が示唆された。 3)クロマチンループ構造の大きさと形成頻度との関係を評価する:この解析では、ループ構造が形成されるとレポーター遺伝子が発現する細胞株を作出して解析することを計画しており、現在レポーター細胞の作出など準備を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度においても三段階の計画で研究を進め、特に2)、3)を中心に解析を行う予定である。 1)2018年度の解析では、解析した全ての分化段階においてKlf4遺伝子の遺伝子-エンハンサー間のループ構造が検出されており、このループ構造がどの段階で生じるかは未だ不明である。2019年度においてはさらに上流の造血幹細胞、多能性前駆細胞を用いた解析を行う。 2)2019年度では、分化前のクロマチンループ構造データを用いた評価、ならびに分化の鍵を握る転写因子遺伝子での詳細な解析を行う。この解析は血球系細胞に限らず複数の細胞種を対象に公共データを用いて調べる。必要に応じて血球細胞でのHi-CやCapture Hi-Cを行う。分化に関わる転写因子遺伝子が細胞系譜特異的なループ構造を持つか、またそのループ構造の大きさと血球細胞が分化産生される頻度とに逆相関性があるかに注目する。 3)ループ構造が形成されるとレポーター遺伝子が発現する細胞株を作出して、解析を行う。CTCFなどのDNA結合配列を、波長の異なる蛍光タンパク質などのレポーター遺伝子の近傍、ならびにエンハンサー配列の近傍に配置する。エンハンサーとの距離が異なるレポーター遺伝子を複数用いて、各レポーター遺伝子の発現頻度を計測する。この発現頻度と、DNA配列から導き出される1次元上の距離との関係を評価する。
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