研究課題/領域番号 |
18K19349
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
岩崎 秀雄 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (00324393)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | シアノバクテリア / UV耐性 / Synechococcus / 概日リズム / kaiABC |
研究実績の概要 |
概日リズムは多くの生物に共通して見られる生理学的性質だが,バクテリア,菌類,植物,動物で使われている中枢時計遺伝子には共通性が乏しく,各々平行進化で獲得されてきたと思われる。一方,時間生物学黎明期の重要な研究者として知られるColin Pittendrighは,昼間の紫外線からDNAのダメージを回避するために,細胞分裂のタイミングを制御する必要から概日システムが進化してきたとの仮説を唱えた。実際,UVと概日システムの間にはいくつかの関連が指摘されている。たとえば,紫外線からDNA複製エラーを修復するために機能するPhotolyaseの類縁蛋白質Cryptochromeは時計同調に関わる青色受容体もしくは時計中枢の転写抑制因子として機能することが知られている。また,緑藻類のミドリムシやクラミドモナスでは,UV耐性(ないしUV感受性)に概日リズムが報告されている。しかし,どのような機構で中枢時計がUV耐性リズムを駆動しているのか,その分子的な実態はいかなる生物でも明らかにされていない。一つには,UV耐性リズムの報告されている緑藻類では,まだ中枢時計の分子解析に未解明の部分が多いことが考えられる。そこで,私たちは,単細胞性シアノバクテリアSynechococcus elongatus PCC 7942に着目し,UV耐性リズムの有無と,あるとすればそのメカニズムを解析することを意図した。予備的段階で,私たちはSynechococcusが特定の条件で顕著なUV耐性リズムを示すことを明らかにし,それが時計遺伝子群kaiABCの制御下にあることを発見した。今年度はそのリズムについて分子遺伝学的な解析を行い,グリコゲン代謝とUV耐性に密接な関係があることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
UV感受性に関する変異解析から,時計出力系因子群(転写出力に関わるKaiC結合性ヒスチジンキナーゼSasAとそのパートナー応答因子のRpaA)およびグリコゲン代謝に関わる遺伝子群がUV耐性リズムと密接に関連することが示された。グリコゲンの異化が進行する時間帯あるいは変異株でUV耐性が抑制される傾向が見られたことから,私たちはグリコゲン代謝を通じたエネルギー代謝と,UV耐性付与にトレードオフがあるとの仮説を立てた。実際に,異所的にグルコーストランスポーターを導入して糖代謝を変更してみると,UV耐性が変調することを実験的に示すことができた。現在,これらの結果をまとめて2019年度前半の論文掲載を目指して論文を執筆している。この報告は,単にUV耐性リズムの報告をシアノバクテリアにおいて追加しただけでなく,時計遺伝子との関連,光回復酵素との関連,細胞内代謝との関連を明らかにした点で,「概日システムとUV耐性の関連」について最も進んだ研究例を提供するものである。さらに,エネルギー代謝とUV耐性のトレードオフの構図は,より一般的な「エネルギー代謝と一般的なストレス応答の関係性」を議論するうえで新たな知見を提供するものであり,学術的な意義は高いと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
最初の論文化に必要なデータの補強を優先して行う。また, sasA遺伝子欠損株におけるUV耐性リズムやグリコゲン代謝については検討していたが,rpaA欠損株においても同様の解析を行っておく。今までの一連の解析はUV-Cでのみ行ってきたため,UV-BやUV-Aについても解析することを検討している。光回復酵素がUV耐性の日周変動に寄与していることは昨年度の解析で示したが,一方で光回復酵素活性あるいはUVに基づくDNA損傷修復自体の概日振動は示すことが出来ていない。これらの解析を行うとともに,より一般的なシアノバクテリアの時計出力の分子機構解析の観点から,シグマ因子による概日転写制御の解析を行う。既に高振幅な概日発現を示す三つのシグマ因子の破壊株のトランスクリプトーム解析や,シグマ因子の発現変調によるゲノムワイドな概日発現プロファイルの影響を解析しており,これらのシグマ関連変異株においてもUV耐性リズムの検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
出来るだけ残額がないように調整したつもりだったが,手違いで582円の残額を遺してしまったため。最終年度においてはこのようなことが無いよう心がけたい。
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