研究実績の概要 |
本研究課題は、母体年齢の変化によって起こる脊椎動物の初期発生への影響を、新規アッセイ系の開発とその解析により理解することを目的としている。また小型魚類のゼブラフィッシュに加えて、水棲脊椎動物で保存された母体年齢効果を検証するために、両生類のネッタイツメガエルを併せて解析に用いる。本年度は、前年度に実施した年齢の異なる雌個体の卵細胞のトランスクリプトーム解析データをもとに、加齢に伴い卵中の遺伝子発現動態が変化する過程の解析を行った。本解析では異なる2系統(Nigerian-A, Nigerian-BH)を用いた。両系統について4段階 (1, 3, 5, 10歳)の年齢の個体からサンプルを調整したため、得られた解析データは8セットになる。この8セット間で発現が変動する遺伝子をフィルジェン社のCLC Genomics Workbenchで抽出した。更に、得られた候補遺伝子について、卵形成過程での発現パターンについて調査を行った。その結果、年齢に加えて系統間で卵細胞での発現が変動する遺伝子の候補を多数同定することに成功した。興味深いことに、ゼブラフィッシュにおいては、母体年齢で表現型の程度が変化する変異体では、系統間でも表現型の程度が変化することが報告されている。このことは、特定の表現型の程度を変化させる修飾遺伝子が母体年齢効果にも関与している可能性を示唆している。本研究で得られた候補も、母体年齢と系統間差による初期発生への影響を共通して説明する修飾遺伝子である可能性があり、今後詳しく機能を解析する必要がある。
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