研究課題/領域番号 |
18K19356
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
横山 潤 山形大学, 理学部, 教授 (80272011)
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研究分担者 |
富松 裕 山形大学, 理学部, 教授 (40555398)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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キーワード | 部分的菌従属栄養 / アーバスキュラー菌根菌 / 安定同位体比 / 夏緑樹林 / 林冠木 / 独立栄養植物 / 有機炭素 |
研究実績の概要 |
陸上植物では、光合成能力を失い、菌根菌を介して有機炭素を得る「完全菌従属栄養」が繰り返し進化している。そして近年、光合成能力を保持したまま、菌根菌からも有機炭素を得る「部分的菌従属栄養」の植物も見出された。これらの植物は樹木の外生菌根菌に依存するラン科やツツジ科で見出されており、独立栄養植物とは主に炭素の安定同位体比で識別することができる。しかし、部分的菌従属栄養植物がどのくらい一般的な栄養摂取様式なのかは分かっていない。本研究では、アーバスキュラー菌根菌(=AM菌)と共生する樹木が優占する北海道の夏緑樹林を対象として、AM菌に炭素源を依存する部分的菌従属栄養植物を探索することを目的としている。 令和元年度は、林冠木と林床植物、AM菌の胞子を対象とした大規模な安定同位体分析を行った。次世代シーケンシングにより菌種を同定したところ、胞子サンプルには多様なAM菌が含まれていることが確認できた。また、AM菌の炭素安定同位体比(δ13C)は、林床植物の平均値よりも有意に大きく、林冠木とは有意差が無かった。この結果は、林床から林冠に向かって13CO2が大きくなる垂直勾配が存在すること、林冠木がAM菌の主な炭素源であることを反映していると考えられた。また、AM菌と密接に共生していた幾つかの林床植物種ではδ13Cが顕著に大きかったが、その中でもギョウジャニンニクのδ13CはAM菌とほぼ同じ値を示した。もし林床植物のδ13Cが主に栄養摂取様式を反映しているとすれば、AM菌に炭素源のほとんど、もしくは大半を依存していることになる。これは現実的ではないことから、林床植物のδ13Cは炭素源以外の要因も反映している可能性が高い。つまり、もし炭素源の一部をAM菌に依存する林床植物があれば、そのδ13Cが大きくなることは期待できるが、δ13Cだけで栄養摂取様式を推測することは難しいと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
調査地の土壌から単離したAM菌の胞子を用いて、炭素安定同位体に供することができた。また、林冠木および林床植物の大規模な安定同位体分析も実施できた。その結果、AM菌との共生の程度とδ13Cの大きさの間に一定の傾向があることが明らかになったが、林床植物のδ13Cは炭素源以外の要因を反映している可能性も指摘されたことは今後の課題である。AM菌の分子同定については、次世代シーケンシングによる同定方法が有効で、効率が良いことも示された。根からのAM菌の単離方法を確立することが課題として残されているが、植物種と時期を変えながら実験を継続する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
AM菌と密接に共生していた林床植物で安定同位体比が大きい傾向が見られたことから、令和2年度は主にAM菌感染率と安定同位体比との関係性について検証を行う。また、胞子として採集されたAM菌が実際に林床植物と共生しているかを分析するほか、菌糸体の安定同位体分析を試みる。得られた全ての結果を取りまとめて論文として発表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
AM菌の分子同定を行うために必要な調整、特に根からの菌の単離に時間がかかった。このため、昨年度に引き続き分子同定そのものが十分行えなったため、それにかかる予定だった経費が次年度使用額となった。これらは次年度の分子生物学的解析用試薬の購入経費に当て、AM菌の分子同定を進める予定である。
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