研究実績の概要 |
客観性と定量性を担保した実験系に基づき「霊長類の精液凝固の定量」をおこない、「生殖関連分子と霊長類社会」の関連性を検証するのが本研究の目的である。具体的には、1)精液凝固の担い手である精しょうタンパク、セメノジェリン(SEMG)の遺伝子構造を多種の霊長類で決定する、2)そのDNA配列情報をもとに試験管内でタンパク合成・凝集を定量化する、3)当該霊長類の社会構造との関連を評価することである。 初年度において、テナガザル科の3属6種においてSEMG1,2の配列を決定し、属レベルで特徴を捉えたが、検索したHylobates属は分類される7種のうち3種のみであったので、情報を増やすべく新たに3種を加えることとした。ゲノム情報の有効活用を念頭に、GRAS-Di法を用いH. albibardes, H. moloch, H. mulleriの配列情報を収集した。 一方、他の霊長類に関しては、60アミノ酸リピートをコードする180bp領域のNJ樹形図を作成し、霊長類の進化の課程でSEMG1のリピート単位の数が変動していることが示された。繰り返し単位は、配列相同性によって2つのグループ、ユニットAとユニットBに分けることができ、ユニットAの数は、種によって大きく異なっていた。ただし、ユニットAは類人猿クラスターと旧世界ザルクラスターに分化していた。類人猿クラスターの中で、チンパンジーの全てのユニットAは明確な単一クラスターを形成していることから、チンパンジーSEMG1の繰り返し単位Aの増大は最近起こったことが示唆された。 コロナ禍のため国外での研究ができない点を補完するため、異なる地域のニホンザルDNAの収集を開始した。
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