研究課題
本研究は、アオミドロなどの糸状性の多細胞体制をもつ種と二次的に単細胞に進化したヒメミカヅキモなどの種を含むシャジクモ藻綱ホシミドロ目に注目し、多細胞体制の維持と機能分化に関わる転写因子を特定し、複雑な細胞分化を遂げた陸上植物への進化において原動力となった要因を提案することを目的とする。より具体的には、① 原始的な多細胞体制をもつアオミドロと単細胞シャジクモ藻類ヒメミカヅキモのゲノム情報を比較・精査し、②アオミドロおよび陸上植物には存在し、ヒメミカヅキモなどの単細胞藻類ではその機能、構造が部分的または完全に失われている転写因子遺伝子群を抽出する。③アオミドロにおいて、当該遺伝子の破壊が多細胞体制と細胞分化にどのような影響を示すかを検証するとともに、④ヒメミカヅキモにおいて発現を復活させ、単細胞体制および細胞質分裂に対する影響を検証する。単細胞藻類ヒメミカヅキモについては、ゲノム解析と遺伝子アノテーションが進展し、プラス型細胞で29823、マイナス型細胞で28501のtranscriptが同定され、転写因子探索のための状況が整った。現在、陸上植物、緑藻類の転写因子群をqueryにして、ホモログの検出を進めている。糸状性のアオミドロについては、予備的な顕微測光分析の結果、現有の系統保存株でゲノムサイズが皆数Gbpと大きいことが判明した。これらの株は、染色体が重複しpolyploid化している可能性が高まり、今後の遺伝子破壊などに不適であるため、あらたにフィールドからゲノムサイズが小さい株を探索することとした。本年度の終わり頃に、polyploidになっている可能性が低い株を見出すことに成功した。それらのゲノムサイズは、0.5~ 1.5 Gbpと比較的小さいもので、かつ何とか生活環もまわせることを確認した。
2: おおむね順調に進展している
ヒメミカヅキモについては、遺伝子アノテーションが完了し、比較解析可能な状況が整った。また、アオミドロについては、現有株がすべて大きいゲノムサイズを持っており、そのまますぐに解析に入れなかったものの、フィールド調査を進めた結果、今後の解析に耐えうる候補株を手に入れつつあり、結果的に早く情報解析が可能になるものと期待される。そこで、ほぼ順調に進展したと評価した。
得られつつあるアオミドロ株を、無菌化し、系統株として確立する。生活環を網羅するようにRNA-seq解析を行い、de novo assembleにより転写物の情報を整理する。ヒメミカヅキモとアオミドロの両種から、転写因子をコードする遺伝子群を見出し、アオミドロおよび陸上植物には存在し、ヒメミカヅキモなどの単細胞藻類ではその機能、構造が部分的または完全に失われている転写因子遺伝子群を抽出する。さらに、アオミドロにおいて、当該遺伝子の破壊が多細胞体制と細胞分化にどのような影響を示すかを検証するとともに、ヒメミカヅキモにおいて発現を復活させ、単細胞体制および細胞質分裂に対する影響を検証する。これらの結果を足がかりにして、陸上植物で見られる機能分化した多細胞体制が、どのような転写因子とその調節対象によってもたらされたのかについて、糸口を探る。
糸状性藻類アオミドロについて、現有株の中から解析に適した系統株を選択する予定であったが、顕微測光解析の結果、ゲノムサイズがいずれも大きく、あらたにフィールドから単離する必要に迫られた。そのため、予定していたRNA-seq解析を行うことが出来なかったため、次年度使用額が生じた。次年度では、得られつつあるゲノムサイズが小さいアオミドロについて、無菌化、系統株化した後、生活環の各ステージからRNAを抽出し、RNA-seq解析を進めるために、予算を使用する。
すべて 2019 2018
すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 2件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件)
Plant Cell Physiol.
巻: 60 ページ: 725-737
10.1093/pcp/pcz030
New Phytol.
巻: 221 ページ: 99-104
10.1111/nph.15334
J. Plant Res.
巻: 131 ページ: 735-746
10.1007/s10265-018-1043-8
Nat. Commun.
巻: 9 ページ: 5283
10.1038/s41467-018-07728-3