研究課題/領域番号 |
18K19367
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研究機関 | 総合地球環境学研究所 |
研究代表者 |
陀安 一郎 総合地球環境学研究所, 研究基盤国際センター, 教授 (80353449)
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研究分担者 |
申 基チョル 総合地球環境学研究所, 研究基盤国際センター, 准教授 (50569283)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2022-03-31
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キーワード | 安定同位体 / 生態系ストイキオメトリー / 非伝統的同位体 |
研究実績の概要 |
本年度は、金属元素の非伝統的な安定同位体を用いた実際の生態系試料の分析を行った。まず、必須元素であるMgの安定同位体(δ26Mg)とZnの安定同位体(δ66Zn)を河川生態学の新たなツールとして活用する可能性を検討した。本研究では、琵琶湖流域の2つの河川の上流と下流において、河川生物とその潜在的な金属源のδ26Mgとδ66Znを測定した。その結果、生物のδ26Mgとδ66Znの値は、互いに関連性がなく、δ13Cとδ15Nの値とも関連性がないことから、元素の供給源や同位体分別を支配する要因は、元素や分類群によって異なることがわかった。濾過摂食を行うトビケラの幼虫や小型のハゼでは、δ26Mg値が低く、水からMgの取り込みが行われていた。また、リター食性ガガンボや藻類食性のカゲロウの幼虫のδ26Mg値が高いことから、餌からMgを取り込む際にMgの同位体分別が行われていることが示唆された。カワゲラの幼虫のδ26Mg値はカゲロウの幼虫を潜在的な餌ということを反映していたが、ヘビトンボの幼虫に見られた高いδ26Mg値は、成長に伴い26Mgが濃縮されたためと説明できる。トビケラとカゲロウの幼虫のδ66Zn値は、Znが水と餌由来のZnの混合物であることを示しているが、ガガンボの幼虫の高いδ66Zn値は、植物リターからZnを摂取する際のZn同位体分別を示唆している。カワゲラとヘビトンボのニンフのδ66Zn値は、しばしば獲物であるトビケラの幼虫の値と同じ範囲であったが、トンボのニンフと小さなハゼは、餌のZn源に比べてδ66Zn値が低かった。 本年度の計画が終了しなかったため、一部の研究について次年度に持ち越した。データの取りまとめと論文執筆にあたりたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
カルシウム同位体分析に関しては、昨年度に引き続き表面電離型質量分析装置(TIMS)を利用した、42Ca-43Caダブルスパイクを用いた精密Ca同位体分析法の開発に取り組んだ。基本的な分析法は昨年度に確立できたものの、国際標準試料(NIST SRM 915bおよびOSIL sea water)を使った繰り返し測定で精度が十分に達成できない問題があった。今年度は十分な精度を求めるための実験を行い、次のような改善された結果が得られた。NIST 915bのδ44/40Caは、平均値は同じく0.00‰で、誤差は0.14から0.08(2sd, n=16)まで精度がよくなった。また、OSIL海水では昨年度ではδ44/40Ca=1.14±0.27(2sd, n=12)であったが、今年度の結果は1.13 ± 0.07 ‰ (2σ, n=8)が得られ、目的していた十分な精度向上ができた。
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今後の研究の推進方策 |
本年度完了しなかった、河川生態系における新しい指標の候補であるδ44Caおよびδ88Srに関しては、水生生物における分析自体が一般的でないため、手法開発も含め今後検討を行う。期間延長した部分で、分析・全体の取りまとめ、および論文発表に努めたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、新型コロナ(COVID-19)に起因するいろいろな問題により研究の進展が遅れた。次年度に研究を一部延長することによって、所期の目的を達成できるように検討したい。
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