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2018 年度 実施状況報告書

脳内多階層ネットワーク間横断シグナルとしての浸透圧信号の機能解明

研究課題

研究課題/領域番号 18K19368
研究機関東北大学

研究代表者

松井 広  東北大学, 生命科学研究科, 教授 (20435530)

研究期間 (年度) 2018-06-29 – 2020-03-31
キーワードグリア細胞 / アストロサイト / 浸透圧 / 光遺伝学 / 陰イオンチャネル
研究実績の概要

脳内情報は、神経細胞の活動電位発火の羅列によってコード化されていると考えられてきたが、本研究では、グリア細胞からグルタミン酸が放出されており、このグリアの作用が、神経信号を強力にコントロールし、動物の行動や学習にも影響を与えていることを明らかにした。グリア細胞の担う情報は、膜電位やCa2+によるものとは限らない。何らかの形の信号が維持できて、加算・減算することが可能で、細胞機能を左右しうる。本研究では、細胞内浸透圧が、脳機能を強力に左右する因子として働き、浸透圧変化を使った情報処理が行われているという仮説を提唱する。本研究では、浸透圧変化に応じて開閉するチャネルに注目し、それを介した伝達物質放出をひとつのアウトプットと捉えた。また、細胞容積の変化、および、細胞間隙の変化がもうひとつのアウトプットであるという可能性を検証する。当該年度は、浸透圧に依存して開閉するVRACチャネルを構成する分子のコンディショナルなノックアウトマウスを作製した。このVRACを通して、伝達物質の放出が引き起こされる可能性がある。既に、グリア細胞内pH低下によってグルタミン酸が放出される過程については、詳細に調べている。今後、VRACが、浸透圧変化とpHの両方を検知している可能性を検証する。本研究を通して、神経細胞でもなく、グリア細胞でもない、ただの間隙が、脳内情報処理モードを強力に支配している可能性が検証される。本研究では、神経細胞・グリア細胞・血管をまたぎ、神経系・代謝系・免疫系を束ねる統合的シグナルのひとつとして、浸透圧信号の役割を解明する。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

脳虚血時やてんかん時には、脳が過剰に興奮するが、グリア細胞からの興奮性伝達物質が、過剰興奮に一翼を担っていると考えられる。そこで、光刺激により、グリア浸透圧を下げることでグリア放出を抑制し、さらに、細胞間隙を広げることで伝達物質濃度を下げ、病態を改善することができるかどうかを検証する研究が考えられる。また、アルツハイマー病が進行すると海馬での興奮性信号の伝わりが悪くなり、これが記憶力の低下につながるとの報告もある。そこで、光刺激により、海馬グリア細胞の浸透圧をあげ、グリア放出を増やすとともに、細胞間隙を減らすことで、シナプス伝達効率を上げ、それによって、記憶力の回復が見込めるかどうかが検証できる。VRACのノックアウトマウスの作製に成功し、また、アストロサイト特異的な光操作が可能となった今、これらの問いに正面から取り組むことが可能になったため、当初の予定通り、おおむね順調に研究は進展していると考える。

今後の研究の推進方策

今後は、グリア細胞のうち、アストロサイトの純粋培養を作り、高張液/低張液投与による細胞内浸透圧の操作を行う実験を行う。また、グリア細胞に光感受性分子を発現させた時、Cl-の出入りによって、細胞内浸透圧が影響を受け、細胞形態が変化するかどうかを調べる。また、浸透圧変化によって放出されるグリア伝達物質も計測する。これには、特定の物質に反応する酵素センサーを用いる。続いて、急性脳スライス標本を用い、高張液/低張液による細胞内浸透圧操作を行い、組織光透過度が変化するかどうかを検証する。引き続いて、自発性の組織光透過度変化も調べる。また、薬理学的操作によって人工的にてんかん様の神経活動発火を誘導する。このような神経細胞の過活動に応じる組織光透過度の変化を計測。これらの研究を通して、神経活動がどのようにグリア細胞に伝わり、細胞内浸透圧情報がコード化されているのかを調べる。これら全ての実験において、本研究で開発したVRACのノックアウトマウスが利用できる。さらに、in vivo実験を行うことで、脳虚血、てんかん、アルツハイマー様認知症等におけるVRACと浸透圧シグナルとの関係を調べることを予定している。

次年度使用額が生じた理由

ノックアウトマウス動物の作製までに予定より多くの時間がかかったため、当施設への動物の搬入が遅れ、それにともない、動物飼育費が予想より低く済んだ。また、動物の作製の遅れにともない、消耗品費の支出も減った。一方、スケジュールの遅れを取り戻すため、当該動物の大規模繁殖に移行するため、次年度における動物飼育費、および、消耗品費の支出は増える予定であり、前年度の差引額はこれに充てる。

  • 研究成果

    (17件)

すべて 2019 2018 その他

すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (11件) (うち国際学会 7件、 招待講演 10件) 図書 (1件) 備考 (1件)

  • [国際共同研究] Heinrich-Heine University Dusseldorf(ドイツ)

    • 国名
      ドイツ
    • 外国機関名
      Heinrich-Heine University Dusseldorf
  • [雑誌論文] Optogenetic astrocyte activation evokes BOLD fMRI response with oxygen consumption without neuronal activity modulation.2018

    • 著者名/発表者名
      Takata N, Sugiura Y, Yoshida K, Koizumi M, Hiroshi N, Honda K, Yano R, Komaki Y, Matsui K, Suematsu M, Mimura M, Okano H, Tanaka KF
    • 雑誌名

      Glia

      巻: 66 ページ: 2013-2023

    • DOI

      doi: 10.1002/glia.23454

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Targeted expression of step-function opsins in transgenic rats for optogenetic studies2018

    • 著者名/発表者名
      Igarashi H, Ikeda K, Onimaru H, Kaneko R, Koizumi K, Beppu K, Nishizawa K, Takahashi Y, Kato F, Matsui K, Kobayashi K, Yanagawa Y, Muramatsu S, Ishizuka T, Yawo H
    • 雑誌名

      Scientific Reports

      巻: 8 ページ: 5435

    • DOI

      https://doi.org/10.1038/s41598-018-23810-8

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] 睡眠の光操作とグリア細胞機能の役割2018

    • 著者名/発表者名
      常松 友美、森澤 陽介、松井 広
    • 雑誌名

      Clinical Neuroscience

      巻: 36 ページ: 925-928

  • [学会発表] Glial optogenetics for understanding the cross talk between metabolism and information processing2019

    • 著者名/発表者名
      Ko Matsui
    • 学会等名
      9th FAOPS
    • 国際学会
  • [学会発表] Role of glial phagocytosis of synapses in physiological memory engravement process2019

    • 著者名/発表者名
      Yosuke Morizawa, Ko Matsui
    • 学会等名
      Gordon Research Conference (Glial Biology)
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] Multimodal expression and control of brain information2019

    • 著者名/発表者名
      Ko Matsui
    • 学会等名
      The 2nd FRIS-TFC Joint Symposium
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] Glial control of neuronal information processing2018

    • 著者名/発表者名
      Ko Matsui
    • 学会等名
      TU-UCL Neuroscience Meeting
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] Glial control of neuronal information processing2018

    • 著者名/発表者名
      Ko Matsui
    • 学会等名
      Heinrich-Heine-University Dusseldorf Seminar
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] Malfunction of potassium extrusion as a major cause of chronic epilepsy2018

    • 著者名/発表者名
      Mariko Onodera, Jan Meyer, Christine Rose, Ko Matsui
    • 学会等名
      Japanese-German YoungGlia collaborative meeting for mutual research exchange
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] Glial control of neuronal information processing2018

    • 著者名/発表者名
      Ko Matsui
    • 学会等名
      Japanese-German YoungGlia collaborative meeting for mutual research exchange
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] 代謝機能の光操作/光計測による脳情報解析と病態制御2018

    • 著者名/発表者名
      松井広
    • 学会等名
      第二回 ニコン顕微鏡イメージングフォーラム
    • 招待講演
  • [学会発表] Cross talk between metabolism and information processing2018

    • 著者名/発表者名
      松井広
    • 学会等名
      第23回グリア研究会
    • 招待講演
  • [学会発表] グリア細胞の光操作で探る脳の機能と心の成り立ち2018

    • 著者名/発表者名
      松井広
    • 学会等名
      第3回 感性・身体性センシング技術分科会
    • 招待講演
  • [学会発表] オプトジェネティクスによる神経発振制御とグリア細胞の役割2018

    • 著者名/発表者名
      松井広
    • 学会等名
      第15回てんかん包括医療東北研究会
    • 招待講演
  • [図書] 基礎心理学実験法ハンドブック2018

    • 著者名/発表者名
      日本基礎心理学会
    • 総ページ数
      608
    • 出版者
      朝倉書店
    • ISBN
      978-4-254-52023-1
  • [備考] 東北大学・超回路脳機能分野

    • URL

      http://www.ims.med.tohoku.ac.jp/matsui/

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公開日: 2019-12-27  

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