研究課題/領域番号 |
18K19370
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
殿城 亜矢子 千葉大学, 大学院薬学研究院, 講師 (90645425)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | 加齢性記憶障害 / ショウジョウバエ / NOS |
研究実績の概要 |
ヒトを含む生物は老化に伴い記憶が低下するが、そのメカニズムはまだ明らかではない。本研究では、加齢依存的に発現量が変化する遺伝子群をトランスクリプトーム解析により抽出し、ショウジョウバエの嗅覚記憶システムをモデル系とした記憶行動解析により加齢性記憶障害の原因候補遺伝子を同定する。これらの候補遺伝子について遺伝学的行動解析を行うことによって、候補遺伝子が加齢性記憶障害の原因遺伝子である可能性を検討する。これらの遺伝学的スクリーニング解析を行った結果、NOの受容体である可溶性グアニルシクラーゼ(sGC)のサブユニットが、加齢に伴い発現量が増加し記憶を負に制御する候補遺伝子として同定した。具体的には、sGCサブユニットを神経細胞で一過的にノックダウンすると記憶が向上した。また、sGCを薬理学的に阻害した個体における記憶を評価したところ、若齢個体・老齢個体の両者において記憶が改善することが明らかとなった。さらに、sGCの上流にあたるNO合成酵素(NOS)の記憶障害への関与を検討した。神経系の細胞で一過的にNOSをノックダウンした個体を作製して記憶を評価したところ、NOSをノックダウンした個体で中期記憶の有意な上昇が見られた。また、NOSを薬剤依存的に阻害した個体の記憶を評価したところ、老齢個体における中期記憶の形成が有意に上昇することが明らかとなった。以上のことより、NO-sGC経路が加齢に伴い更新することで記憶の低下を引きおこすことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
若齢個体・老齢個体の頭部RNA-seq解析とゲノムワイド網羅的遺伝学的スクリーニング(嗅覚連合学習)の結果を比較解析し、加齢に伴う記憶低下の原因となる責任候補遺伝子群を57遺伝子抽出した。これらの遺伝子群について時期・場所特異的に遺伝子を発現させることが可能なGal4-UAS遺伝子発現系である“gene-switchシステム”を用いて神経細胞で発現量を一過的に改変し、老齢個体における記憶低下が抑制もしくは増悪するか検討した。その結果、NOの受容体である可溶性グアニルシクラーゼ(sGC)のサブユニットが、加齢に伴い発現量が増加し記憶を負に制御する候補遺伝子として同定し、詳細な解析に進んでいる。このように、交付申請書に記載した内容についてほぼすべて順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
今回明らかにしたNO-sGC経路と老齢個体の記憶低下との関与について、NO、sGCそれぞれがどの細胞群で記憶を負に制御しているのか、また当該細胞において加齢に伴う発現量の変化も併せて検討する。また、その他の候補遺伝子についても解析を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 研究計画を推進していく過程で、NO-sGC経路と加齢に伴う記憶低下との関与について明らかになってきた。これらについての詳細な解析や、その他の候補遺伝子についても解析を進める予定であるため、次年度使用額が生じた。 (使用計画) NO-sGC経路と加齢に伴う記憶低下との関与についての詳細な解析や、その他の候補遺伝子について解析を進める。
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