研究課題/領域番号 |
18K19374
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
杉山 清佳 新潟大学, 医歯学系, 准教授 (10360570)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | ホメオ蛋白質 / 神経回路形成 / 恐怖記憶 / ドーパミン |
研究実績の概要 |
ただ泣いていた赤ちゃんが、3歳になる頃には言葉で気持ちを伝えられるようになる。子どもの脳の発達は非常に急速かつ柔軟だが、経験に伴って発達する仕組みには、未だ解明されていない点が多い。申請者らは、胎児の脳を作るOtx2ホメオ蛋白質が、生後の脳の発達を促進することを明らかにしてきた。Otx2は経験のメッセンジャーとして目から大脳視覚野へと移動し、標的遺伝子の発現を制御することで臨界期を誘導する(杉山&侯, 2019)。一方で、ホメオ蛋白質が視覚以外の機能にも経験のメッセンジャーとして作用するのか、脳内を移動する詳細な仕組みとは何か、未だ不明な点も多い。 申請者らは、Otx2が視覚だけでなく、視床および中脳領域にも局在し、情動発達に関与すると推測している。この領域においても、Otx2は外から経験依存的に運ばれる可能性がある。成体マウスにおいて恐怖条件付け行動解析を行うと、Otx2変異マウスでは恐怖記憶が低下し、幼児健忘のように恐怖記憶を忘れてしまうことが分かった(飯島/杉山, 2018)。この際、Otx2は、恐怖記憶の中枢である扁桃体において抑制性細胞の成熟に影響を与えることが観察された。さらに、Otx2の標的遺伝子をChIP-seq解析により網羅的に探索すると、概日リズムやドーパミン分泌に関わる遺伝子が標的として同定され、Otx2がこれらの標的遺伝子の発現に関与することが示唆された(Sakai & Sugiyama, Dev. Growth Differ. 2018)。これらの結果は、ヒトのOtx2変異において睡眠障害や摂食障害などが報告されていることと一致する。Otx2が情動の関連領域においても経験のメッセンジャーとして機能するのか、さらに解析を進めていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Otx2は、胎児期に中脳ドーパミン細胞の分化や投射に作用することが知られている。これまでの申請者らの研究から、生後においてもOtx2がドーパミン経路の成熟に関与することが、Otx2標的遺伝子の同定と恐怖記憶の行動解析から示唆された(Sakai&Sugiyama, 2018、飯島/杉山, 2018)。特に、Otx2はドーパミンの下流で働く機能分子の発現を制御すると考えられ、その作用は大脳皮質にも及ぶことが示された。Otx2の分子作用が脳内の領域間をまたいで観察されることは、このホメオ蛋白質が情動と行動の形成に広く関与することを支持している。
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今後の研究の推進方策 |
申請者らの研究から、ドーパミン伝達にホメオ蛋白質が関与することが分かってきた。そこで、Otx2変異マウスを用いて中脳ドーパミン細胞からの電気生理学解析を行い、このホメオ蛋白質がドーパミン細胞の活動および成熟に影響を与えるのかを明らかにする。近年、ドーパミン量とホルモン量のリンクが報告されている。ホルモン分泌は概日リズムに制御されることから、中脳・視床領域におけるホメオ蛋白質の局在は、ドーパミンおよびホルモンの分泌に広く関与する可能性がある。そこで、ホルモン遺伝子の変異マウスを導入し、情動の発達およびホメオ蛋白質との関連を解析する。一連の解析によって、ホメオ蛋白質が情動の生後発達においても経験のメッセンジャーとして機能するのか、解析を進めていく。
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