研究実績の概要 |
大脳皮質は高次脳機能の場であり、大脳皮質を構成する細胞数は、高次機能の質を規定すると予想されている。例えば、げっ歯類の大脳皮質に比べ霊長類の大脳皮質では、より多くのニューロンが働いている。本研究では、細胞周期離脱を人為的に遅らせて、ニューロン数の飛躍的増加を試みる。そして、「ニューロン数が高次機能を規定している」という仮説を検証する。 ニューロン増加の結果、行動がどう変化するのか、大脳皮質以外との情報交換はどのようになるのか、など個体レベルで解析を進めるために、大脳皮質全体での変容を目指すことのできる、発現を自在に制御できる遺伝子改変マウスを用いて(Tanaka et al., 2010)、大脳皮質全般でニューロン数を増加させることを試みた。そのためにtetO配列をRP58の上流に組み込み、神経前駆細胞でトランスサイレンサー(tTS)を発現するマウス(Mlc1-tTSマウス)と交配させ、前駆細胞においてRP58を欠落させ、OSVZ様構造の作製を試みた。RP58欠落状態では、ニューロンの分化が阻害されるため、ドキシサイクリンでtTSの作用を阻害することにより、RP58の発現を再開させる。Mlc1-tTSはE12からE14にかけて神経前駆細胞に発現開始することが知られている。この時期にtTSを発現させ、RP58の発現を神経前駆細胞で欠落させ、細胞周期離脱を遅らせ、脳表側に増殖層(OSVZ様構造)の出現するか否か検討した。その結果、E16でRP58発現を再開した場合、Pax6陽性細胞の増加が確認された。これは、神経前駆細胞の増加を意味しており、仮説に矛盾しない。
|