アトロプ異性を有する化合物が、時間をかけて異性化する性質を利用して、アトロプ異性体が標的分子との結合の際の活性配座を簡便に検出する方法を開発することを目的として研究を実施した。前年度までにインドメタシン誘導体のアトロプ異性体を分離と種々のタンパク質との相互作用について検討を行った。この結果を踏まえ、より多くの配座異性体について研究を発展させた。軸不斉を持つベンズアミド類がC-C結合軸とC-N結合軸それぞれにおいて、配座異性体を生じうることに着目し、単純なベンズアミド類の2つの結合に関して回転の制御を試みた。その結果、ベンゼン環上の置換基により、2つの結合回転の制御が可能であり、室温で分離可能な4種類の異性体の取得に成功した。また、アミド結合の酸素原子を硫黄原子へと置換したベンズチオアミド類についても同様に検討したところ、2つの結合軸の回転が大きく抑制され、ベンズアミド類の4つの異性体を分離するための結合回転の制御に成功した。以上の実験結果については、量子化学計算により回転障壁を求めることで、理論的にも妥当であることが示された。次に、この新たなベンズアミド素子を既知の酵素阻害剤に対して導入した。複数のX線構造に基づき、回転を制御するための置換基の導入が許容される標的を、ドッキング計算により抽出した。得られ標的に作用する既知の阻害剤にベンズアミド素子とベンズチオアミド素子を導入することで4つの配座異性体を分離した、活性配座解明のための誘導体を獲得した。
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