研究課題/領域番号 |
18K19385
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
松元 慎吾 北海道大学, 情報科学研究院, 准教授 (90741041)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | MRI / 核偏極 / 細胞死 / 分子イメージング |
研究実績の概要 |
炎症性疾患、外傷、虚血や梗塞など多くの疾患において、その重症度を評価する最も端的かつ合理的な指標は“どれだけの細胞が死んでいるのか”である。治療の観点からは、例えば脳梗塞時にどれだけの神経細胞を死から救えたか、あるいは逆に抗癌治療によりどれだけ多くの癌細胞を殺せたのか、が治療効率の判断基準となる。本研究では、現行の動的核偏極(DNP)法に比べ臨床初期コストが10分の1へ抑制できることが見込まれるパラ水素誘起偏極法による超偏極13C MRIを用いて、細胞死に特定的に見られる代謝変化を標的に、体内で起こる細胞死を非侵襲的にイメージングする技術を開発している。 初年度であるH30年度では、細胞死を検出する2種類の部位特異的に13C標識された分子プローブを有機合成するための合成経路を確立し、実際にパラ水素誘起偏極法により13C核スピンに超偏極誘導(MRI信号の数万倍励起を意味)できるかを検証した。1つ目の分子プローブは1.5Tの熱平衡時と比べ10万倍以上の13C MRI信号の励起が確認されたが、実用的な励起時間内に調整できる濃度が1mM以下であり、生体計測に用いるには1桁以上の濃度の改善が必要である。2つ目の分子プローブはパラ水素付加による1Hへの超偏極誘導は高効率に実施できたが、1Hから13Cへの分極移動が確認されなかった。2つの標識した13Cの対称性に問題がある可能性があり、今後は1カ所のみを13C標識した前駆体プローブを合成し、超偏極1Hからの分極移動を試みる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
炎症性疾患、外傷、虚血や梗塞など多くの疾患において、その重症度を評価する最も端的かつ合理的な指標は“どれだけの細胞が死んでいるのか”である。治療の観点からは、例えば脳梗塞時にどれだけの神経細胞を死から救えたか、あるいは逆に抗癌治療によりどれだけ多くの癌細胞を殺せたのか、が治療効率の判断基準となる。本研究では、現行の動的核偏極(DNP)法に比べ臨床初期コストが10分の1へ抑制できることが見込まれるパラ水素誘起偏極法による超偏極13C MRIを用いて、細胞死に特定的に見られる代謝変化を標的に、体内で起こる細胞死を非侵襲的にイメージングする技術を開発している。 初年度であるH30年度は、細胞死により細胞外へと放出されても酵素活性を維持しているフマラーゼを標的に、パラ水素誘起分極法により超偏極13Cフマル酸を調整する前駆体プローブの開発を行った。具体的なアプローチとしては、1) [1-13C]アセチレンジカルボン酸のトランス選択的アルケン化、および、2) [1,4-13C2]フマル酸のプロパルギルエステル体のサイドアーム法による励起、の2つを試みた。前者については、10%以上の高い13C偏極率を持つ超偏極13Cフマル酸を調整できたが、実用的な励起時間内で調整できる濃度が1mM程度と低く、生体計測に用いるには1桁以上の濃度の改善が必要であった。後者のアプローチでは、パラ水素付加による1Hへの超偏極誘導は高効率に実施できたが、1Hから13Cへの変動磁場による分極移動が確認されなかった。この原因として、2つの13C核スピンの対称性が問題であると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
2年度目は細胞死プローブの13C偏極率の改善と疾患モデルにおける実用性評価を行う。アセチレンジカルボン酸からのトランスアルケン化では、マイクロ化学用のミキサーを使用することで水添の反応効率を改善し、より高濃度の超偏極13Cフマル酸溶液の調整を試みる。プロパルギルエステル前駆体からのサイドアーム型の励起では、2つの標識13C核スピンの対称性が分極移動を妨げていることが考えられ、1位を13C標識したフマル酸エステルを合成し、パラ水素による13Cへの超偏極誘導が可能か検証する。 生体計測に十分な濃度と偏極率の超偏極13Cフマル酸溶液を調整できるようになったら、MRI撮像により細胞死イメージングの実用性を評価する。細胞死のモデルとしては、担癌モデルマウスへの抗癌治療効果の検出と、アセトアミノフェンの過剰投与による肝障害モデルの2モデルにおいて、超偏極13C MRI代謝イメージングを自作の1.5T 1H/13C MRI装置を用いて取得する。フマル酸により細胞死イメージングが可能であることが検証できた後、他の細胞死に関連した酵素を標的とする分子プローブの開発にも着手する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究を進める過程で、第一選択の研究手法があまり上手くいかないことが判明し、次の選択肢にアプローチを変更したため、必要となる試薬などに変更が生じたため。残額は次年度の消耗品に使用する。
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