炎症性疾患、外傷、虚血や梗塞など多くの疾患において、その重症度を評価する最も端的かつ合理的な指標は“どれだけの細胞が死んでいるのか”である。治療の観点からは、例えば脳梗塞時にどれだけの神経細胞を死から救えたか、あるいは逆に抗癌治療によりどれだけ多くの癌細胞を殺せたのか、が治療効率の判断基準となる。本研究では、現行の動的核偏極(DNP)法に比べ臨床初期コストが10分の1へ抑制できることが見込まれるパラ水素誘起偏極法による超偏極13C MRIを用いて、細胞死に特定的に見られる代謝変化を標的に、体内で起こる細胞死を非侵襲的にイメージングする技術を開発した。 2年度目であるR1年度では、細胞死を検出する13Cフマル酸プローブの三重結合前駆体構造からの選択的トランスアルキル化反応条件を見直すことで、1.5Tの熱平衡時と比べ10万倍以上の13C MRI信号の励起性能を維持したまま、実用的な励起時間内に調整できる濃度を初年度の1mMから5mM以上へと改善した。超偏極誘導した13Cフマル酸を腫瘍ホモジネートと混合した13C NMR測定では、細胞死マーカーであるリンゴ酸への代謝反応をリアルタイムに計測することに成功した。また、健常マウスに投与した超偏極13Cフマル酸のMRI撮像により、フマル酸の生体内分布の可視化を達成した。健常マウスのMRI撮像では細胞死マーカーである13Cリンゴ酸の代謝物ピークは検出されなかった。今後は、疾患モデルにおいて、細胞死イメージングの実用性評価を実施する。
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