研究課題/領域番号 |
18K19386
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
倉田 祥一朗 東北大学, 薬学研究科, 教授 (90221944)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | 神経支配 / 恒常性維持 / 腸管 / ショウジョウバエ |
研究実績の概要 |
「病は気から」と言われるように、神経系と、病に対する免疫系との密接な繋がりは、以前より推察されてきた。現に100年ほど前、昆虫を用いて神経系が免疫系に影響を与えていることが示されている(Metalnikov, S. Ann. Inst. Inst. Pasteur 38, 787-826, 1924)。しかしその後、神経系による免疫制御に関する研究は、複雑な神経系と免疫系を持つ哺乳動物はおろか、神経系と免疫系が比較的単純な昆虫においてもほとんど進展がない。ショウジョウバエでは、特定の神経細胞を人為的に不活性化、または活性化し、その神経細胞が制御している事象を個体レベルで明らかにすることができる。そこで特定の神経細胞を不活性化した際に、通常病原性を示さない軟腐病菌の経口感染に対する抵抗性を失う神経細胞群を探索し、NP3253神経細胞を同定した(J. Exp. Biol. 2016)。NP3253神経細胞は、脳から食道と中腸に投射し、細胞体は脳内と、食道と中腸の境界領域付近に存在していた。そして、その神経終末の一部は、腸管内側の管腔側にも存在していた。このことから、NP3253神経細胞が、腸管での感染防御を制御している可能性や、腸管内部の状況を感知している可能性が考えられた。実際、NP3253神経細胞の不活性化により腸管のバリア機能が破綻し、経口感染した細菌が腸管内に留まらず全身に拡散していた。本研究では、この神経細胞群に着目し、NP3253神経細胞群がどのような制御を受け、どのように免疫系を制御し、感染防御を行っているのかを明らかにすることを目的としている。初年度は、NP3253神経細胞が何らかの制御を受け、感染防御を調節しているのかどうか調べるために、NP3253神経細胞を人為的に活性化し、致死性病原菌に対する抵抗性を調べた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
NP3253神経細胞が何らかの制御を受け、感染防御を調節しているのかどうか調べたところ、NP3253神経細胞の活性化により、致死性病原菌に対する感染抵抗性が上昇することが明らかとなり、その際、経口感染させた病原菌の腸管における数は、NP3253神経細胞の活性化の有無で変動しなかった。したがって、NP3253神経細胞の活性化は、病原菌の排除を行う免疫応答を誘導するのではなく、病原菌に対する耐性(トレランス)を上昇させていることが示唆されたため。
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今後の研究の推進方策 |
初年度において、NP3253神経細胞が何らかの制御を受け、感染防御を調節していることが示唆されたため、NP3253神経細胞において、ヘッジホッグ(Hh)の受容体であるPtcが特異的に発現していることに着目して、NP3253神経細胞による感染防御の調節におけるHhシグナルの影響を調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の研究計画では、初年度に、NP3253神経細胞の投射先の腸管において、神経活動依存的に発現が変動する遺伝子を、DNAマイクロアレイを用いて同定する計画であった。より発現量の低い遺伝子を同定する必要が生じたために、DNAマイクロアレイから次世代シーケンスに方法を変更し、解析を次年度に行うことにしたため。次年度使用額は次世代シーケンス解析に用いる。
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