「病は気から」と言われるように、神経系と、病に対する免疫系との密接な繋がりは、以前より推察されてきた。現に100年ほど前、昆虫を用いて神経系が免疫系に影響を与えていることが示されている。しかしその後、神経系による免疫制御に関する研究は、複雑な神経系と免疫系を持つ哺乳動物はおろか、神経系と免疫系が比較的単純な昆虫においてもほとんど進展がない。そこで特定の神経細胞を不活性化した際に、通常病原性を示さない軟腐病菌の経口感染に対する抵抗性を失う神経細胞群を探索し、NP3253神経細胞を同定した。本研究では、この神経細胞群に着目し、NP3253神経細胞群がどのような制御を受け、どのように免疫系を制御し、感染防御を行っているのかを明らかにすることを目的としている。初年度において、NP3253神経細胞を人為的に活性化し、致死性病原菌に対する抵抗性を調べたところ、NP3253神経細胞の活性化により、致死性病原菌に対する感染抵抗性が上昇することが明らかとなり、NP3253神経細胞が何らかの制御を受け、感染防御を調節していることが示唆された。そこで本年度は、NP3253神経細胞が受ける制御を明らかにするために、NP3253神経細胞において、ヘッジホッグ(Hh)の受容体であるPtcが特異的に発現していることに着目した。そして、NP3253神経細胞による感染防御の調節におけるHhシグナルの影響を調べた。その結果、NP3253神経細胞におけるHhシグナルを阻害すると、感染抵抗性が低下し、逆にHhシグナルを活性化すると、感染抵抗性が上昇した。このことから、感染抵抗性の発現における、NP3253神経細胞におけるHhシグナルの関与が示唆された。さらに、NP3253神経細胞の投射先の腸管において、神経活動依存的に発現が変動する遺伝子として、1139遺伝子を同定した。
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