研究課題/領域番号 |
18K19387
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
小椋 康光 千葉大学, 大学院薬学研究院, 教授 (40292677)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | 活性シアン種 / セレン / スペシエーション |
研究実績の概要 |
代表者は、代謝機構の一つとしてシアン抱合とも考えられる生体反応、すなわち内在性のシアンが細胞内で生成し、非酵素的にセレンと反応していることを強く示唆する結果を得て、この反応性の高い内在性のシアンを活性シアン種(reactive cyanogen species, RCNS)と名付けた。本研究の目的は、(1)従来法を凌駕する高感度の細胞内シアンの検出方法を確立すること、(2)生体内でどのようにRCNSが生合成されているのかの分子機構を明らかにすること、(3)RCNSが生体外異物に対する解毒システムとしてどのように機能しているのかを明らかにすること、の3点とした。 初年度は特に(1)に焦点を絞り検討を開始した。 すなわち、RCNSが非酵素的にセレンと反応することに着目し、安定同位体濃縮したセレン化合物で内在性のシアンを誘導体化し、誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP-MS)により検出を行う。既に100 nL程度の分析が可能な技術の特許を取得しているため(特許第4491607号)、主に誘導体化反応を検討する。安定同位体を利用するのは、セレン自体が必須元素であるため、内在性のセレンと誘導体化標識化合物として用いるセレンとをICP-MSで区別して検出するためである。新規に確立した方法が、これまで汎用されているガスクロマトグラフィーによる検出法や蛍光ポストカラムよるHPLC法に比べて、どの程度の優位性があるかも定量的に評価した。いくつかの分析上の問題点があり、今のところ定量的な評価に至ってはいないものの、分析法の確立は整っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
概ね当初の想定通りの分析法の確立には至っている。実際の生体試料など、複雑なマトリクスで構成される分析対象については、ICP-MSに導入できる溶媒に制限があるため、最適な検出感度を得るための条件に至るにはもう少々の工夫が必要であることがわかった。分析を専門とする海外研究者と一部国際的な共同研究実施し、この問題に対する解決法にたどり着きつつある。
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今後の研究の推進方策 |
当初からの計画にある以下の2点について、次年度の重点課題とする。 1.ほ乳類細胞内におけるシアン生成の分子機構の解明:内在性のシアン生成に関わる基質の量や精製に関わる酵素の活性を制御することにより、シアン生成の分子機構を明らかにする。今のところ右図のように想定している反応では、ミエロパーオキシダーゼ(MPO)の関与が強く疑われるため、具体的には、基質となるグリシンや過酸化物の曝露を行い、内在性シアンの生成量を評価する。また、MPOの阻害剤やRNAi法などを組み合わせて、MPOの関与を明らかにする。RCNSは、我々が検討した限りでは、生成量に差はあるものの、すべての細胞種で検出されていることから、好中球特異的とされるMPO以外にもRCNS産生を担う酵素系があることも想定し、検討を行う。 2.異物代謝におけるRCNSの機能の解明:前ページに示した細胞内でのセレン代謝の中間体であるセレノトリスルフィドは、高い親電子性を有している。これはロダネーゼによるチオ硫酸存在下でのシアン化物イオンからのチオシアン酸の反応中間体と類似の構造が形成されているためである。セレン以外にも各種の親電子化合物について、非酵素的なシアンとの反応が起こり得るかを検討する。特に金属元素に着目し、毒性金属の代謝全般にRCNSの関与があるのかを明らかにする。具体的には、周期表内でセレンの近傍にある、いわゆる類金属を中心に検討を行い、最終的には水銀やカドミウムなどの典型的な毒性重金属についても検討の幅を広げる。
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