研究実績の概要 |
がんは人類がその克服を挑戦し続けている難治性の疾患である。がんの特徴である細胞制御の欠損(増殖シグナルの持続, 増殖抑制の回避, 細胞死への抵抗, 不死化した複製能の獲得, 浸潤と転移の促進, 血管新生の誘導 )は、紫外線や化学物質などによる遺伝子の損傷が原因である。がん遺伝子・がん抑制遺伝子など発がんやがんの悪性化の原因となる遺伝子はドライバー遺伝子とよばれる。ドライバー遺伝子の変異(活性化や不活性化)によって、細胞は増殖能を獲得し、クローナルに増殖し、発がんに至る。それ故、国内外でがん種に応じたドライバー遺伝子の同定が盛んに行われており、低分子化合物や抗体医薬などの治療標的になると考えられている。一方、発がんやがんの悪性化への関与が考えられているものの、ドライバー遺伝子が見つからないがんも数多く存在する。本研究では、「ドライバー遺伝子の痕跡が消失するがん発症機構の解明」を研究目的とする。我々は、活性型の転写共役因子YAPをコードする遺伝子を、マウス肝臓へモザイク状に、一過的に導入した。その結果、3ヶ月以降に肝がんが発症した。興味深いことに、肝がんを構成する細胞で、原因である活性化YAPの発現は観察されなかった。また、肝がんを構成する細胞のうち、活性化YAPを発現した肝細胞は一部に過ぎず、大部分は正常肝細胞由来であることが判明した。すなわち、本実験系は、「ドライバー遺伝子の痕跡が消失するがん発症」であると考えられる。2年目以降は本実験系を用いて、その発症機構の解明を行う。
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