研究課題/領域番号 |
18K19396
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
鈴木 亮 金沢大学, 薬学系, 教授 (00344458)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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キーワード | アレルギー / マスト細胞 / アレルゲン親和性 / 加齢 / 脱感作 |
研究実績の概要 |
我が国は、急速に高度高齢化社会を向かえ、高齢者の健康維持・増進は社会的関心事である。その意味において、生体の恒常性を維持する免疫システムが重要な役割を担っている。これまで加齢による免疫システムの変化が様々な疾患の発症要因と考えられてきたが、その実体は明らかになっていなかった。特に、アレルギー疾患においては、加齢により発症する加齢発症アレルギー疾患が問題となっている。 アレルギー疾患の発症には、IgEとマスト細胞が重要な役割を担っており、特にIgEはアレルゲン認識、IgE受容体を介したマスト細胞活性化に重要な役割を果たしている。本研究では、若年性アレルギー疾患と比較して、異なる原因で疾患が発症している可能性がある加齢発症アレルギーの発症要因についてin vitroおよびin vivoの研究を通して明らかにすることを試みた。 そのため、若年および加齢マウスを用いて以下の項目について追究した。(1)細胞老化検出試薬SA-β-Galを用いた老化マウス組織での老化細胞の同定。(2)免疫機能重要組織でのマスト細胞の分布や細胞数及び状態の画像解析。(3)若年・加齢マウスでのマウス末梢血中のヒスタミン、抗体濃度の定量解析。(4)局所性アナフィラキシーPCA(passive cutaneous anaphylaxis)、全身性アナフィラキシーPSA(passive systemic anaphylaxis)、アトピー性皮膚炎(hapten-induced chronic dermatitis model)など各種疾患モデルを用いた、加齢発症アレルギー疾患の加齢感受性や発症要因の追究。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究の実施によって、以下のような研究成果を得た。はじめに、加齢細胞感受性色素SA β-Galによって、種々の免疫組織(耳介、リンパ節、脾臓、皮膚)における老化細胞の検出及び加齢による変化の解析を行った。その結果、加齢に伴いSA β-Galの発現する老化細胞の数が増加することが分かった。また、若年マウスと加齢マウスの免疫組織における単位面積あたりのマスト細胞数について解析したところ、加齢に伴いマスト細胞数が有意に上昇していた。さらに加齢マウス内で観察されるマスト細胞では、脱顆粒反応に伴う形態変化を起こしており、加齢マウスではその数が統計学的にも有意に上昇していた。次に、局所性アナフィラキシーPCA(passive cutaneous anaphylaxis)、全身性アナフィラキシーPSA(passive systemic anaphylaxis)、アトピー性皮膚炎(hapten-induced chronic dermatitis model)など各種アレルギー疾患モデルを用いた解析を行った。その結果、疾患モデルの違いによって、若年マウスで感受性が高い場合や加齢マウスによって感受性が高い場合など、予想に反して疾患モデルによって若年及び加齢マウスで疾患症状が大きく違うことが明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の成果から、アレルギー担当細胞であるマスト細胞は、加齢とともに免疫組織内の状態が大きく変化している可能性が示唆された。加齢マウスでは、マスト細胞数や脱顆粒反応などアレルゲンに感作されていない状態、すなわち未刺激の状態においても生体内で炎症反応が誘導されていた。このことは、マスト細胞が何らかの原因で活性化し、恒常的な組織炎症反応を誘導していることを示唆しており、それらの分子メカニズムを明らかにすることが、加齢発症アレルギー疾患の疾患原因を追究する上で重要である。そのため、未刺激状態での恒常的炎症反応誘導メカニズムの解析については、今後も重要研究課題として追究をする予定である。 さらに、本年度行った局所性アナフィラキシーPCA(passive cutaneous anaphylaxis)、全身性アナフィラキシーPSA(passive systemic anaphylaxis)、アトピー性皮膚炎(hapten-induced chronic dermatitis model)など各種アレルギー疾患モデルを用いた解析から、疾患モデルによって若年及び加齢マウスで疾患症状が大きく違うことが明らかになった。本年度は、その他のモデル動物(食物アレルギーなど)の解析を始め、上記の疾患について細胞・組織学的解析、遺伝子解析など、分子・細胞・動物レベルでさらに詳細な解析を進めることによって、加齢発症アレルギー疾患の原因を追究することを試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の予算については概ね予定通りに執行した。本年度の繰越予算に関しては、一昨年の繰越予算がそのまま次年度に繰り越した形となっている。本年度は最終年度ということもあり、各種疾患モデル動物作製費用の他、組織学的解析や組織細胞からの細胞の単離および遺伝子解析を行うなどの予算に充当する予定である。
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