研究課題/領域番号 |
18K19397
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
片平 正人 京都大学, エネルギー理工学研究所, 教授 (70211844)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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キーワード | アミロイドβ / プリオン / RNAアプタマー / 相互作用 / アルツハイマー病 |
研究実績の概要 |
プリオン蛋白質(PrP)は、正常型から異常型に遷移すると、ウシの狂牛病やヒトのクロイツフェルトヤコブ病等を引き起こす。我々は正常型のPrPに強く結合して安定化する事で、PrPの異常型への遷移を阻害するRNA分子(RNAアプタマー)を見出した。一方細胞表面に繋留されたPrPが、オリゴマー化したアミロイドβ蛋白質(Aβ)の受容体として機能して、アルツハイマー病の引き金となる事が提唱されている。そしてPrPに対する抗体を用いてPrPをマスクして、PrPとAβオリゴマーとの相互作用を遮断すると、アルツハイマー病に特徴的と考えられる長期増強(LTP)が消失してしまった状態から回復する事が、海馬切片を用いた実験で示された(Nature, 2009)。PrPとAβの相互作用を阻害する事が、アルツハイマー病の治療に繋がる可能性を示す結果である。そこで抗体の代わりにPrPに対するアプタマーを用い、これによってPrPをマスクしてAβオリゴマーとの相互作用を遮断した際に、LTPが復活するのかを海馬切片を用いた実験で検証した。その結果、RNAアプタマーによってPrPをマスクして、PrPがAβオリゴマーと相互作用する事を阻害した場合には、確かにLTPが回復する事が示唆された。即ち抗体と同様の抗Aβ効果を、RNAアプタマーも発揮できる事が示唆された。RNAアプタマーのこの抗Aβ効果は、抗アルツハイマー病効果に繋がる可能性がある。但し統計的な有意性をもってこの事を結論づけるには、さらに実験の回数を増す必要がある事が分かった。そこで研究期間を1年間延長して、より確固とした結論の取得を目指す事とした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに、PrPが異常型に遷移(有毒化)する事をRNAアプタマーによって阻害できる事を、異常型PrPを産生する細胞を用いた実験によって証明できた。また、RNAアプタマーの立体構造をNMR法によって決定し、PrPとの相互作用様式を原子レベルの分解能で決定できた。これによって当該RNAアプタマーの高いPrP結合能及び高い抗プリオン効果を合理的に説明する事ができた。さらに、RNAアプタマーによってPrPをマスクして、PrPがAβオリゴマーと相互作用する事を阻害した場合には、確かにLTPが回復する事を示唆する結果を、海馬切片を用いた実験から得た。即ちRNAアプタマーは、抗Aβ効果(ひいては抗アルツハイマー病効果)を発揮できる事を示唆する結果が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
RNAアプタマーによってPrPをマスクして、PrPがAβオリゴマーと相互作用する事を阻害した場合には、LTPが回復する事が海馬切片を用いた実験から示唆された。即ちRNAアプタマーが抗Aβ効果を発揮できる事が示唆された。この事を統計的な有意性をもって結論付ける為に、当該実験をさらに複数回実施していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
相互作用の遮断を検証する実験を海馬切片を用いて進行させてきたが、検証結果に統計的な有意性を持たせる為には、実験回数をさらに増やす必要がある事が判明した。そこで研究期間を1年間延長した。次年度使用額は、この延長期間に使用する。
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