我々はニワトリリゾチーム(HELと記載)の化学修飾により調製した多量体を生理食塩水(PBSと記載)に溶解してマウスに投与後、一週間毎にHEL単量体とCFAを混合し免疫し、一週間毎の眼窩採血により得た血清中にHEL特異的な抗体の産生をELISAで評価した。その結果、HEL特異的な抗体産生が起きない(免疫寛容誘導)ことを見出していた。この知見を抗体医薬品使用の際に生じるADAs(Anti-Drug Antibodies)の抑制に応用できるかを調査することが本研究の目的である。 令和元年度は、研究基盤となる、HELの多量体前投与後にHEL単量体を投与した場合、HEL特異的な免疫寛容誘導が生じる結果をとりまとめ、オープンジャーナルBiochem.Biophys.Rep.に公表した。 次に、免疫実験標準プロトコール(アジュバンドとして最初1回のみCFAを用い、その後はIFAを用いて免疫する)により、報告した実験と同様な実験を行った結果、HEL特異的な免疫寛容誘導が起きた。しかし、この際には、前投与するHEL多量体量が一匹あたり1.0mg (報告済論文の10倍)必要であった。 このプロトコールで、化学修飾により得たHEL2量体、βラクトグロブリン(市販品)(β-LGと記載)及びリコンビナントで調製したヒト型Fabを化学修飾により多量体化した生成物をPBSに溶解し、マウスに前投与した。その一週間後にそれぞれの単量体をCFAと混合して免疫し、その後は一週間毎にそれぞれの単量体をIFAと混合し免疫した。同様にELISAで抗体産生を評価した。その結果、HEL2量体では免疫寛容誘導が起こったが、β-LGでは免疫寛容誘導が起きなかった。 HELでは2量体でも免疫寛容誘導が生じること、蛋白質の等電点の違い(HELの等電点が11、βーLGは等電点が5)が免疫寛容誘導と関係していることが示唆された。
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