研究課題/領域番号 |
18K19408
|
研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
樋口 恒彦 名古屋市立大学, 医薬学総合研究院(薬学), 教授 (50173159)
|
研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
|
キーワード | 動的核偏極 / ペンタセン / シクロデキストリン / 水溶化 / NMR / 平衡反応 |
研究実績の概要 |
ペンタセン類は、一つの励起三重項状態分子が周囲の多数の分子の核偏極を引き起こし、室温でそれらのNMRの感度を数万倍まで高める機能を有する。もしタンパク質の構造解析に応用できれば、超迅速測定法につながり、意義は大きい。しかし、ペンタセン類は疎水面が広く、通常の修飾で水溶化は構造上困難であ り、さらに光に対して不安定であるため、そのままでは応用不可能である。そこでシクロデキストリンを用い、不可逆的な封入を行って、水溶化を図ると同時に、光に対する安定化も図り、これを用いた動的核偏極による、微量のタンパク質等のNMR測定を種々実施し、極めて迅速なNMR構造解析新手法への道を拓くことを目的としている。 令和元年度は、前年度は未達だったアルキン(トリメチルシリルアセチレン)を2カ所に導入したペンタセン1の合成に関しては、種々の工夫を施すことにより、安定に必要量得られるようになった。次にアジドシクロデキストリン(アジドCyD)と1との1,3-双極子付加反応を検討したが、1が極度に疎水性であり、一方のアジドCyDの方は全くの親水性であるために、反応溶媒の選択がむずかしく、また結合生成の確認も困難であり、今のところ確認には至っていない。このため、ひとまず共有結合ではなく、非共有結合によるペンタンセンとCyDとの複合体(1:2複合体をを期待)を形成させることとした。初めに、ペンタセンとbeta-CyDとをソニケーション、グラインドなどによっての形成を試みたが形成にまで至らなかった。そこで、あらかじめ2つのCyDを適切と考えられる長さのスペーサーで結合させた分子をホストとすることで、相互作用面積を約2倍にすることでペンタセン包接能を高めたホストの合成に着手している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究の進捗の遅れに関しては以下のような要因によると考えている。CyD誘導体の合成・精製に関しては、それらが水溶性で非常に極性が高く、UV吸収も持たないため、通常有機合成に用いる技術があまり適用できず、特殊なため合成に困難を伴っている。 次に、ペンタセン類は、自身の光増感作用による一重項酸素生成のため、容易に酸素付加体とその分解物へ速やかに変化して行きやすいという困難さも有する。 さらに、以上のような困難を伴う実験を遂行しているのが、まだ研究経験の浅い学部学生であることも進捗に影響している。ただし、該当する学生の経験とスキルは上昇してきているため、今後は研究が推進されると思われる。 また、CyDとペンタセン類の極性が極端に異なるところも、反応条件の設定をむずかしくしており、今後の課題となっている。
|
今後の研究の推進方策 |
今後の推進方策としては、合成の困難さを回避する方策として、CyD類の水酸基を全てメチル化したパーメチル体にしてから変換を進めることにする。こうすることによって、水溶性は保ちながら、シリカゲルカラムによる精製を可能にするからである。これにより合成が推進すると期待できる。 また、あらかじめ2つのCyDを適切と考えられる長さのスペーサーで結合させた分子をホストを合成し、非共有結合的にペンタセン類との複合体形成をおこなう方が、ペンタセンの分解を伴いにくいシンプルな操作となると考えた。このため本戦略による合成を進めていく。 最近になって、ペンタセンの類縁体である6,13-ジアザペンタセンもほぼ同様に動的核偏極を行うことができるという報告があった (N. Yanai et al. J. Phys. Chem. Lett., 2019, 10(9), 2208-2213)。6,13-ジアザペンタセンは、ペンタセンのような酸化分解が起きにくく安定なため、かなり扱いやすいと考えられる。そのためゲストとしてはこちらも合成して用いることとする。 以上のようにして、水溶化したペンタセン類縁体を早急に合成することによって、水溶媒中でのNMRの動的核偏極における有用性を実証していく。
|
次年度使用額が生じた理由 |
目的分子の合成が、予定していたほどは進まなかったため、大スケールでの合成にも至らなかったことより、試薬・溶媒の購入・消費が予想より少なかったことが第一の理由である。
次に、2020年3月には、成果発表や情報収集のための学会出張旅費が、新型コロナウイルスの影響による、予定していた全ての学会の中止のために使用できなくなったことも影響している。
|