酸化ストレスや外来異物に対する生体応答系の破綻は、様々な疾患発症と密接に関わる。このようなストレス関連疾患の発症を未然に防ぐ目的で、生体は環境ス トレスに対して迅速に応答し、恒常性を維持する仕組みを保持している。Nrf2は酸化ストレスや異物・毒物代謝に関わる酵素群の遺伝子を統一的に制御してお り、生体防御の要として働く転写因子である。Nrf2活性化による強力な生体防御機能の増強作用は大きな注目を浴びており、その作用の様々な疾患の予防・治療 への応用を目指して、国内外で多くのNrf2誘導剤の開発計画が進行している。Nrf2は、非ストレス刺激下ではKeap1-Cullin3(Cul3)を構成因子とするユビキチ ンE3リガーゼ複合体によりユビキチン化され、プロテアソームにより迅速に分解されている。Keap1は、ユビキチンリガーゼ複合体の基質認識アダプターとして 機能するだけではなく、外来性ストレスのセンサー分子としても機能する。例えば、Keap1が酸化ストレス刺激を感知すると、同複合体はユビキチンリガーゼ活性を失いNrf2のユビキチン化反応は停止する。その結果、分解を免れて安定化したNrf2は核内に蓄積して、抗酸化剤応答配列(ARE)に結合し、種々の標的遺伝子の転写を活性化する。ストレス応答においてNrf2活性化を惹起する分子基盤、特にKeap1によるNrf2のユビキチン化反応に対する調節機構の解明を目指し、X線結晶構造解析およびクライオ電子顕微鏡解析を行った。X線結晶構造解析については、これまでにKeap1-Cul3複合体の共結晶の取得に成功し、より高品質の結晶の取得のための条件検討を現在行っている。また、クライオ電子顕微鏡解析については、Keap1-Cul3複合体の二次元平均像の取得に成功し、より分散性の高いサンプル 調整の条件検討を現在進めている。
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