研究実績の概要 |
細胞膜のように裏と表で異なる脂質組成からなる非対称脂質二分子膜を構築するには、水と油の界面に形成した脂質単分子膜を二枚はりあわせる、液滴接触法が有用だと考えている。ここで、張り合わせる二枚の脂質単分子膜の組成が同じ場合は対象膜になり、異なれば非対称膜になる。本年度は、原子間力顕微鏡観察に用いるマイカ基板およびガラス基板上において、液滴接触法による対象脂質二分子膜の調製条件を検討した。円柱状(直径1.5 mm, 高さ2 mm)のガラスステージをカバーガラスに瞬間接着剤で固定し、ガラスステージの外形から3 mm程度の間隔をあけてシリコンゴム(厚さ3 mm)のバリアを固定した。ステージの上部およびシリコンゴムとの間の側溝に水溶液を充填し、さらにその上へリン脂質を溶解したヘキサデカン溶液を液面がすべて覆われるように添加した。次に先端の細いゲルローディングチップを用いて下部の水溶液を少しずつ抜き取り、水-油界面を下降させることで、界面の脂質単分子膜を基板表面に吸着させた。続いて少量の水滴をオイル溶液中にゆっくりと添加して、比重によってステージ上に乗せ、水滴とオイル溶液の間に形成した二枚目の脂質単分子膜を基板上の脂質単分子膜に張り合わせ、脂質二分子膜を形成した。基板表面への脂質薄膜の吸着の確認のために、蛍光色素つきの脂質をヘキサデカン溶液中に少量混合しておき、調製した脂質二分子膜を蛍光顕微鏡観察した。基板表面が均一に蛍光色素由来の蛍光を発しており、基板表面に脂質の薄膜が形成されていることがわかった。しかし、現時点では薄膜の調製の再現性が低く、基板上に均一に蛍光分子が分布するときとしないときがある。また薄膜の厚さを評価していないなめ、薄膜が本当に脂質二分子膜かどうかが未確認である。今後は蛍光顕微鏡上に設置したチップスキャン型高速原子間力顕微鏡を用いて膜厚を計測するなど、更なる評価が必要である。
|