細胞が分化する際、細胞増殖の変化を伴うことは広く知られている事実である。例えば、増殖(分裂)していない血液幹細胞から様々な血液細胞を生み出すためには、血液幹細胞が増殖することが必要である。さらに増殖する血液幹細胞から生み出される様々な血液細胞の前駆細胞は、それぞれの系列に固有の細胞増殖能を持つことも知られているが、細胞増殖と分化を関連付けて制御する分子機構の詳細は不明である。細胞にとって最も基本的な性質である細胞増殖と細胞分化の関係を正しく理解し、その作動原理の全体像を明らかにすることは、生物学に残された重要な課題の一つである。この課題の解明には、細胞増殖と細胞分化を関連付けて制御している新しい因子の同定が必要であると考えられるが、そういった機能を担う因子を同定しようとする試みは今のところ成功していない。申請者は、増殖と分化を結びつける候補機能分子として「細胞内遊離ヘム」に注目した。本研究では、細胞増殖の変化に先行して変動する「細胞内遊離ヘム」が、生体内で分化制御因子として機能している可能性を検証する。本年度は昨年に引き続きFRET型プローブの開発を行ってきたが、ある程度機能しそうなFRET型プローブを得ることができた。一方、今までの2年間で開発してきた消光型ヘムプローブ(ヘムに対する親和性の異なる複数のヘムプローブ)を発現するトランスジェニックマウスを作成した。今後はこのマウスを用いて、細胞分化における細胞内ヘムの役割を明らかにしていく予定である。
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