研究課題
本研究では、「大腸がん」をモデルとして、抗体医薬等を開発するために、革新的な戦略システムを構築する。マウス腸管オルガノイドは、ヒト大腸がんで高頻度に変異が認められる4種類のドライバー遺伝子(Apc, Kras, Tgfbr2, Trp53)を組み合わせて変異を導入することで発生する腸管腫瘍である。樹立したオルガノイドを同系マウスやNOGマウス(完全免疫不全マウス)の腸管あるいは脾臓に移植することで、ヒト大腸がんの原発巣および肝転移に極めて近い病態を再現することができる。このマウス由来オルガノイドシステムを用いて、構造解析にも使用できる立体構造認識抗体を取得する。創薬のターゲットの7割が膜タンパク質であるということに注目し、腫瘍組織(原発巣、転移巣)を摘出して、膜画分を調整した後、界面活性剤で可溶化する。摘出した腫瘍組織は、研究協力者の大島正伸(金沢大)が提供する。超遠心機で不溶性画分を除いた後、ホスファチジルコリンとSalmonella 菌由来のlipid Aと共に再構成したプロテオリポソームを抗原としてマウス腹腔内に複数回投与する。リポソーム抗原を用いた場合、lipid Aが強い免疫刺激を与えて抗原性を増強するとともに、特にB細胞抗原受容体に対して未変性の膜タンパク質表面の立体構造を有効に提示できるため、所望の抗体が産生されやすい。自己免疫疾患マウスに免疫し、免疫寛容を回避する。スクリーニング工程では、可溶化した腫瘍組織をビオチン化脂質含有リポソーム中に再構成した上で、安定かつ強固にストレプトアビジン-マイクロプレートのウェルに固定化した抗原を用いてELISA(リポソームELISA)を行う。リポソームELISA法では陽性、ドットブロット法では陰性となるクローンを選抜することにより、膜タンパク質の部分ペプチド配列ではなく、立体構造を認識する抗体を20種類以上選抜する。
2: おおむね順調に進展している
1.大腸がん発生と悪性化に関与する既知ドライバー遺伝子数種類を組み合わせて導入したマウスモデルを作製し、大腸がん細胞の悪性化形質や転移能獲得にはApc、Kras、Tgfbr2 変異の組み合わせが重要であることを明らかにした (Cancer Res, 2018)。これらのドライバー遺伝子すべてに変異が蓄積した大腸がんオルガノイドではテトラスパニンTM4SF1、Na+依存性 L-アスコルビン酸トランスポーターSLC23A2等の膜タンパク質の発現亢進が顕著で、shRNAによる発現抑制実験等から大腸がん悪性化進展機構に特定の膜タンパク質の機能・相互作用が必須であることが証明された。2.上記の1.で大腸がん転移抑制のための創薬標的候補として挙げられた膜タンパク質を対象として、機能性抗体作製およびX線結晶構造解析を実施するための基盤として、昆虫細胞Sf9発現系を用いた膜タンパク質の大量発現・精製法を確立した。一例としてヒト・テトラスパニンTM4SF1に関する実験結果を図1に示した(精製収量 2.5 mg/L Sf9培養)。精製の最終段階でのゲル濾過クロマトグラフィーでのピーク形状は良好、精製品のSDS-PAGE泳動像も単一バンドである。3.上記の2.で得られたTM4SF1の高品質精製標品および当グループが独自に開発した抗体スクリーニング技術(リポソーム免疫、リポソームELISA、蛍光ゲル濾過分析等)を用いて、ヒトTM4SF1に対する立体構造認識抗体(膜タンパク質の部分ペプチド配列ではなく、膜タンパク質の親水性表面の立体構造を特異的に認識し結合するモノクローナル抗体)を5株取得した。さらに、当該抗体が膜タンパク質の細胞外ドメイン/細胞外ドメインのいずれに結合しているかを識別する新技術を確立し、それを用いて少なくとも3株が細胞外ドメインの立体構造に結合することを明らかにした。
取得した抗体を大量生産し、Fab抗体フラグメントを調製する。TM4SF1/Fabフラグメント複合体の精製品を調製し、この試料を用いて脂質キュービック相結晶化法により結晶化条件のスクリーニングを実施する。結晶化実験と並行して、TM4SF1/Fabフラグメント複合体を脂質ナノディスクに再構成し、クライオ電子顕微鏡単粒子解析のための試料調製を進める。さらに、取得した抗体の薬理活性評価に必要な大腸がんオルガノイドを用いた実験系を確立する。in vitro薬理活性評価(高転移性オルガノイドの培地に抗体を添加することによる増殖阻害効果、形態変化、浸潤能の変化を観察)とin vivo薬理活性評価(高転移性オルガノイドをマウス脾臓に移植後に抗体投与による治療実験)を実施する。転移抑制が観察される場合、どこに効いているのか (colonization、expansion、間質形成能など)を組織学的に見極める。取得した抗体IgGの精製品を用いて、大腸がん転移抑制の薬理効果の有無を解析する予定である。
本年度は、京都大学から関西医大に移動し研究室を立ち上げた。2018年7月から2019年3月までクロスアカウント制度を利用し、関西医大6割、京都大学4割で両研究施設を兼任した。そのため、研究の立ち上げに時間がかかり、499,440円を次年度に繰り越すことになった。
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Nature chemical biology
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