研究課題
人類の集団史の推定は、人類学的な重要性だけでなく、疾患関連遺伝子の探索の背景知識としても重要な課題である。近年のゲノム解析技術の進展により、DNA多型解析アレイや全ゲノムシークエンスを用いて大量のSNP情報を得ることができる。この情報を用いて、人類の集団史を推定することができる。例えば、集団間の遺伝的関係性の推定や、過去の集団の大きさの変遷が推定されている。しかし、SNP情報を用いた研究では、極めて近い集団の関係性(例えば、本州の中の地域間の関係)や最近(10000年以降)の集団サイズの変遷は、正確に推定することが難しい。この理由の一つは、マーカーとしてSNPを用いているためであると考えられる。SNPの突然変異率低く、1.2 x 10-8/世代程度であると推定されている。そのため、安定性が高いものの、最近の集団間の遺伝的変化を捉えるマーカーとしての能力は限られていると考えられる。本研究では、SNPに代わり、突然変異率が高いマイクロサテライトを用いることで、SNPを用いた研究の限界を打破し、近縁な集団間の遺伝的関係性や最近の集団史の情報を得ることを目的とする。申請者が開発したマイクロサテライト解析法を用いて、日本人集団、韓国人集団、世界各地から収集された集団サンプル(Simon’s Genome Diversity Project)の全ゲノムシークエンスデータを解析した。これらの結果を解析することで、数段解析に用いるために最適な多型検出のパラメータを探索した。また、エラーが多いと考えられるマイクロサテライト座位の選別を行った。このことにより、精度が高いマイクロサテライト 多型リストが作成されたと考えられる。全ゲノムシークエンスデータの解析は順調に終了した。また、多様性の量を評価した結果、先行研究と一致するパターンが観測されており、解析結果は妥当であると考えられる。
2: おおむね順調に進展している
個人差解析においても問題ない精度で解析が可能であると考えられた。
今後は、集団間の遺伝的多様性のパタンの違いの解析、過去の集団サイズなどの集団史の推定を行う。さらに、この研究から、個人同定に有用なマイクロサテライト マーカーが発見される可能性も高い。機械学習を用いることで、個人同定に適したマイクロサテライト マーカーの選択を行う予定である。計算機を用いた解析が主であり、実験を行うことがなかったため、使用額が少なかった。なお2020年度には実験を行う予定である。
本年度はコンピュータを用いた情報解析が主であり実験を行わなかった。2020年度は、データ解析に加えて実験を行う予定である。
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 2件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 1件)
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