研究課題/領域番号 |
18K19428
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
岡村 康司 大阪大学, 医学系研究科, 教授 (80201987)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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キーワード | 膜電位 / イノシトールリン脂質 / アフリカツメガエル |
研究実績の概要 |
従来、膜電位情報は、電位依存性イオンチャネルと呼ばれる一連の電位感受性蛋白質群によって感知され、これらが膜電位変化に応じてイオン透過を示すことによって機能すると考えられていた。しかし申請者はこれまでに膜電位変化に応じて酵素活性(ホスファターゼ活性)を示すユニークな蛋白質VSP(Voltage-sensing phosphatase)を同定しており、膜電位信号が持つ新しい側面を明らかにしてきた。近年、申請者はイノシトールリンを基質とするこのVSPの機能解析実験を行う過程で、偶然にもツメガエル卵母細胞がVSPに起因しない内因性の電位依存性酵素活性(ホスファターゼ/キナーゼ活性)を示し、電位依存的にPtdIns(3,4)P2の量を増やすメカニズムが存在することを見出した。そこで本研究では、この内因性の電位依存性酵素活性の正体を突き止めることで、未知の膜電位感知システムを同定することを目的とした。様々なイノシトールリン脂質プローブを使用することで、そのメカニズムの解明を試みたものの、明確な解答は得られなかった。この一方、PI3K阻害剤であるwortmaninを投与するとこの現象は消失した。このことは、イノシトールリン脂質のリン酸化や脱リン酸化が生じていることを示唆する。また時間経過の解析から、このメカニズムは何らかの複数の分子の関与によるシグナル経路を活性化しているものと推測された。 この内因性の電位依存性酵素活性を示さないアカハライモリの卵との比較解析では、現在のところ明確な糸口は得られていないものの、今後トランスクリプトーム解析やプロテオミクス解析により分子実体についての端緒が得られる可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アフリカツメガエル卵母細胞において生じる内因性イノシトールリン脂質酵素活性について、その性質を生理学的に解析した。本現象では膜電位依存的にイノシトールリン脂質の一種PtdIns(3,4)P2の量が増大することが分かっている。本酵素はおよそ0mV以上の脱分極によって認められ、また一過的な脱分極に引き続いて持続的な応答が認められるため、VSPのように膜電位と酵素活性を1対1に結び付けるのではなく、なんらかのシグナル経路を介して作用している可能性が示唆された。また本現象はPI3-kinaseの阻害剤であるwortmanin存在下で30分以上長時間処理すると認められなくなり、イノシトールリン脂質のリン酸化・脱リン酸化を介して生じている、という我々の仮説を支持した。一方でどのようなカスケードが作用しているかを調べるため、PtdIns(3,4)P2以外のイノシトールリン脂質PtdIns(3)P、PtdIns(4)P、PtdIns(4,5)P2、PtdIns(3,4,5)P3に対するプローブを用いて同様の検証を行った.。しかしながら変化は認められなかった。これはPtdIns(3,4)P2以外のイノシトールリン脂質がPtdIns(3,4)P2よりも比較的多く存在しているため、シグナルの差として認められなかったことに起因すると考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
今回、アフリカツメガエル卵母細胞において生じている内因性酵素活性は、その時間経過から、なんらかの複数の化学反応によるシグナル経路を介している可能性が示唆された。したがってVSPの同定のときとは状況が異なり、現象を引き起こしている分子が単一ではない可能性も考慮する必要があると考えられた。一方で、本研究により本酵素活性がイノシトールリン脂質のリン酸化・脱リン酸化を介して生じていることが、あらためて確認された。そのため従来型のPI3kinaseなどに焦点を絞った研究がより求められると考えられる。今後、アフリカツメガエルとアカハライモリについて、PI3kinaseやその他のPIPs関連フォスファターゼ、キナーゼについて遺伝子発現量に何らかの違いが見られるかなどを調べる方針である。もし違いが認められた場合はその分子に着目して、膜電位を感知する蛋白質と相互作用が行われているかを検証する予定である。一方で、もし、違いが見られなかった場合はPI3-kinaseの相互作用分子をそれぞれにおいて同定し、膜電位感知蛋白質との相互作用で差異が認められるかを検証する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)研究を進めていくうえで、新たな研究方法により解析が向上可能なことを確認したため、計測系を導入することとした。当初の予定通りGFPを用いたプローブにより、細胞のPI(3,4)P2の電位依存的増加を再現性よく認めることができた。その一 方、本研究の開始後、海外においてFRETをベースとした速いPI(3,4)P2蛍光プローブを用いた計測が可能になった。時間分解能の高い定量は本研究には重要な側面で、本研究の目的である、より詳しい分子メカニズムの解明に迫れることが予測されたため、この新技術の導入をおこなうこととした。 (使用計画)研究計画に変更はなく、前年度の研究費を含めて、当初の予定通り計画を進めていく。
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