研究課題/領域番号 |
18K19429
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
金井 好克 大阪大学, 医学系研究科, 教授 (60204533)
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研究分担者 |
大垣 隆一 大阪大学, 医学系研究科, 助教 (20467525)
奥田 傑 大阪大学, 医学系研究科, 助教 (50511846)
岡西 広樹 大阪大学, 医学系研究科, 助教 (70792589)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | アミノ酸 / トランスポーター / 寿命 |
研究実績の概要 |
本研究は、腸管からのアミノ酸吸収、すなわちアミノ酸アベイラビリティを低下させることで個体寿命が延長する分子機構を解明し、新たな方向性を寿命研究に提示することを目的とするものである。研究対象である、モデル生物線虫の腸管に発現するアミノ酸トランスポーターとオリゴペプチドトランスポーターのダブルノックアウト個体について、さらに詳細な表現型解析を実施したところ、寿命の延長に加えて、産卵数の減少、体長の短縮傾向など新たな表現型が認められた。これらは、これまでの寿命関連の先行研究において、寿命の延長に伴って現れることが多いことでも知られている。その過程で、これまで明らかにされていなかった、アミノ酸トランスポーターの頂端膜への局在化機構に関するタンパク質間相互作用についても、新たな知見を得ることができた。 加えて、当該のダブルノックアウト線虫が示す寿命延長の分子メカニズムの解明に向けて、幾つかの重要な技術基盤を確立した。蛍光誘導体化色素NBD-F(4-fluoro-7-nitro-2,1,3-benzoxadiazole)をもちいてアミノ酸のアミノ基を標識したのち、C18逆相カラムをもちいた高速液体クロマトグラフィーにより分離して定量する測定系を立ち上げた。これにより、トリプトファンを除く19種類のタンパク質構成アミノ酸及び幾つかの代謝物の定量的な解析が可能になった。また、アミノ酸アベイラビリティに応じて変動する、寿命に関わるシグナルネットワークの特定に向けて、定量的リン酸化プロテオミクス解析のサンプル調製法の詳細な検討を実施した。固定化金属イオンアフィニティークロマトグラフィーによるリン酸化ペプチド濃縮方法、安定同位体標識化の反応条件の最適化をおこなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アミノ酸トランスポーターとオリゴペプチドトランスポーターのダブルノックアウト線虫について、より詳細な表現型解析を実施することで、腸管アミノ酸トランスポーターの寿命への寄与を明確にしたほか、今後の解析の指標ともなり得る寿命と関連した幾つかの表現型も見出すことが出来た。当初予定していたリン酸化プロテオミクス、メタボロミクス、DNAマイクロアレイによる解析の実施には至らなかった。しかしながら、その実施に向けて非常に有用な、高速液体クロマトグラフィーによるアミノ酸定測定系を確立し、アミノ酸及びその代謝物を定量的に解析することが可能になった。また、リン酸化プロテオミクスによる細胞内シグナル解析の成否に大きく影響するリン酸化ペプチド濃縮、安定同位体標識化などのサンプル調整方法を最適化した。 加えて、研究の過程で、当該アミノ酸トランスポーターの腸管細胞頂端膜への局在化機構に寄与するタンパク質間相互作用についても新たな知見を得ることができた。当該アミノ酸トランスポーターと複合体を形成していると考えられる一回膜貫通型タンパク質の欠損が、それ単独では予想に反して頂端膜への局在化には影響しないこと、しかしながら、既に当該のアミノ酸トランスポーターの頂端膜局在化に老化依存的に寄与する因子として研究代表者が報告していた、足場タンパク質とのダブルノックアウト線虫では、若い個体においても著しく頂端膜への局在が損なわれることが明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
腸管細胞に発現するアミノ酸トランスポーターとオリゴペプチドトランスポーターのダブルノックアウト線虫を作製し、寿命延長に最も顕著に寄与するトランスポーターを同定する。同定されたアミノ酸トランスポーターのノックアウト線虫と野生型線虫を用いて、リン酸化プロテオミクス、メタボロミクス、DNAマイクロアレイによる比較解析を実施する。定量的な検証実験を経て、それらの解析結果を総合し、アミノ酸アベイラビリティの低下が示す寿命延長効果に関連するシグナルネットワークを特定する。得られた寿命延長に関わるシグナルネットワークについて、そのシグナル経路の主要因子のノックダウンや過剰発現を線虫のwhole animalで行い、生体寿命への寄与を検証して、寿命と関わる新規分子機構を提唱する。以上をもって、哺乳類における相同な分子システムを提示し、哺乳類寿命研究への新たな着眼点と新たな方向性を提示する。 また今回、アミノ酸トランスポーターの腸管細胞頂端膜への局在化機構に寄与するタンパク質間相互作用についても、新たな知見を得た。研究代表者らは、当該のアミノ酸トランスポーターの頂端膜局在化に関与する因子として、老化に伴って必要となるPDZタンパク質を既に報告している。今年度新たに見出した相互作用は、当該アミノ酸トランスポーターと複合体を形成している一回膜貫通型タンパク質およびPDZタンパク質の三者が関与する、分子複合体レベルの複雑な頂端膜局在化制御機構の存在を示すものであり、老化に伴ってその因子間の相互作用の重要性や様式が変化することを示唆している。アミノ酸アベイラビリティの低下による寿命延長効果とも関連する可能性がある非常に興味深い現象であり、その分子機構の詳細について引き続き検証を加える。
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次年度使用額が生じた理由 |
「物品費」はほぼ交付申請書通りであったが、「その他」の経費が若干予定よりも高額となり、逆に旅費は低額となった。結果的に、ごくわずかではあるが予算残額が生じた。これは主に、次年度に使用する物品費に充てる予定である。
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