研究課題/領域番号 |
18K19430
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
中村 俊一 神戸大学, 医学研究科, 教授 (40155833)
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研究分担者 |
伊集院 壮 神戸大学, 医学研究科, 助教 (00361626)
梶本 武利 神戸大学, 医学研究科, 助教 (00509953)
岡田 太郎 神戸大学, 医学研究科, 准教授 (80304088)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | スフィンゴシン1燐酸 / S1P受容体 / αシヌクレイン / パーキンソン病 / レビー小体 |
研究実績の概要 |
パーキンソン病はアルツハイマー病に次いで頻度の高い神経変性疾患であり、病理所見で罹患神経細胞内にレビー小体と呼ばれるαシヌクレインを主成分とした封入体が認められるのが特徴である。αシヌクレインの機能は不明であるが、パーキンソン病の患者の血清や脳脊髄液中には健常人と比べて高濃度のαシヌクレインが検出でき、病気の進展に関与する可能性がある。我々は細胞外αシヌクレインがS1P1受容体に作用し、同受容体に連関したGiタンパク質シグナルを遮断することを発見した。また、我々はエキソソーム系多小胞エンドソーム(MVE)への積荷ソーティングに於いてMVE膜上での持続的S1P産生とS1P1受容体の活性化が重要であることを報告した。そこで初年度の研究目標は細胞外αシヌクレインがMVE膜上に存在するS1P1受容体に作用し、同受容体のGiタンパク質との脱連関を引き起こし、MVEへの積荷ソーティングを阻害するかを明らかにすることを目指した。実験に用いられる積荷としてはMVEマーカーとして良く用いられる蛍光融合タンパク質CD63-mCherryを指標にMVEへの取り込みに於ける細胞外αシヌクレインの影響を観察した。細胞外のαシヌクレイン濃度が上昇するとMVEへのCD63のとりこみは有意に減少した。この時S1P1受容体とGγサブユニットを用いたFRET解析の結果から、MVE膜上のS1P1受容体とGiタンパク質は細胞外αシヌクレインにより脱連関が生じることを明らかにした。これらの結果はJ. Biol. Chem. (2018) 293, 8208-8216に報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
パーキンソン病の病態解析に関しては、ほとんどの研究が全体の数%を占める家族性パーキンソン病(αシヌクレインやPARKIN等の変異による)をモデルにしているが、全体の9割以上を占める特発性パーキンソン病の病態解析は進んでいないのが現状である。我々は特発性パーキンソン病患者の血清や脳脊髄液中に健常者に比べ高濃度のαシヌクレインが存在することをヒントに、細胞外のαシヌクレインの機能を調べる過程で、偶然同タンパク質がS1P1受容体の脱連関を引き起こすことを見出した。初年度の研究結果からαシヌクレインを細胞に添加することによりS1P1受容体が細胞膜の「情報ステーション」脂質ラフトから駆逐され、S1P1受容体とGiタンパク質との脱連関(アンカップリング)が引き起こされることを見出し、当初の予測を超えた研究の進展と評価している。しかしながら、細胞外のαシヌクレインの効果は細胞内で発現させたαシヌクレインでは認められず、細胞膜の外側に多く存在する脂質、特にガングリオシドとの結合が重要な役割を果たしているものと推測している。細胞外のタンパク質が細胞膜のガングリオシドと結合し、細胞の正常な情報伝達を撹乱する例は蜂毒マストパランなどでも見られる。また、パーキンソン病患者にガングリオシド製剤を投与すると患者の運動機能が亢進したとする報告もある。今後、αシヌクレインと結合するガングリオシドの同定、及びS1P1受容体とGiタンパク質との連関機構に関するαシヌクレインの効果をガングリオシドの側面から検討していきたい。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の当初の目的はパーキンソン病の病態に於けるS1Pシグナルの関与を証明し、同疾患の新たな病態解析を行うことにある。同疾患の罹患神経細胞の形態的特徴として細胞内にレビー小体と呼ばれる封入体が認められることが挙げられる。レビー小体はαシヌクレインを主要な構成タンパク質として形成される層状構造を有する封入体であり、パーキンソン病のみならず、レビー小体認知症など近縁の疾患でも見られ、最近ではレビー小体を特徴とする疾患をまとめてαシヌクレイン病として扱う方向もある。従って、今後の重要な方向性はレビー小体形成のメカニズムを明らかにすることである。これまでの国内外の研究からαシヌクレインは細胞内で濃度が上昇すると細胞内で凝集する性質があることから、濃度上昇はオートファジー抑制が原因と考えられ多くの研究がなされてきた。そこで我々はS1Pシグナル・エキソソーム放出へと視点を変え、細胞外αシヌクレインがS1PシグナルのGiタンパク質シグナルを抑制することにより、エキソソームとして放出されるαシヌクレイン量が減少する一方、細胞質のαシヌクレイン量が増加し、同タンパク質の凝集を引き起こすことにつながるとする仮説を証明したい。そのためには、細胞内で発現したαシヌクレインがエキソソーム系MVEへの積荷となることを証明する必要がある。そこで現在、細胞外のαシヌクレインと細胞内で発現したαシヌクレインを異なる蛍光色素を有したタンパク質と融合させ識別することにより、問題を解決する方針である。
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次年度使用額が生じた理由 |
概ね当初の計画通り交付金を使用したが、端数が生じたため次年度に繰り越し消耗品に使用予定である。
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