研究課題
炭疽の予防法として、無莢膜弱毒炭疽菌の芽胞懸濁液が動物用炭疽生ワクチンとして世界で広く利用されている。このワクチンは、動物では炭疽予防に一定の効果を示す一方、ヒトに対しては重篤な副作用を示す。一部の国では、炭疽菌毒素の一つ Protective antigen(PA) を利用した無細胞炭疽ワクチンをヒトに使用しているが毒性を有することから実用性に乏しい。本研究では、新規ヒト炭疽ワクチン開発を目的として、炭疽菌毒素PAの多量体構造情報を基に in silico 分子計算手法を用い、ワクチン抗原候補分子を人工分子として設計した。昨年までに、組換え体タンパク質として大腸菌内に産生させた人工分子を高度精製し、約2 mgの精製人工分子を調製した。さらに精製分子を in vitro で2量体化させた多量体化人工分子を用い、メルボルン大学においてマウス免疫試験を実施した。マウスを用いた免疫試験で得られた血清において、人工分子は全長PAとほぼ同等の抗原性を示し、かつ同等以上の毒素中和活性を示すことが示された。免疫原性の強さに関しては全長PAと大きな差はみられなかったが、人工分子においてはPA毒性発現に関わる細胞膜結合領域が欠失していることから、現行のワクチンで問題となっている毒性問題を解決できる抗原であると予想される。現在、免疫効果を高めるため、メルボルン大学で開発されたアアジュバントが人工分子抗原のワクチン効果に与える影響に関して検討を続けている。
3: やや遅れている
本研究においては、動物を用いた免疫試験を行うことが必要であり、設計された人工分子の大量かつ高度に精製された試料が必須である。この点においては、当初の目標をはるかに上回る試料の調製に成功した。また、人工分子の試験管内多量体化反応においても、予想された結果を得ることができた。加えて、人工分子の免疫原性がマウスにおいて確認され、本年度までにタンパク質構造を基盤とした人工抗原分子の作成及び評価を完了する予定であった。得られた免疫血清による毒素中和試験を計画していたが、本試験に用いる試薬の供給規制が厳しくなり、本研究室ならびに共同研究先で充分量の試薬調達に時間を要した。そのため、当初計画から遅延が生じた。なお、次年度に当該試薬を入手できることを確認している。
・人工抗原により誘導された抗体の評価を継続する(毒素中和試験等)。・ In silico 分子計算によって作出された人工抗原分子の立体構造を、高分子NMR解析、X線構造解析の手法によって決定し、in silico 分子設計の妥当性を検証する。得られた検証結果を基にin silico分子設計の精度向上を試みるとともに、抗原性の増強を図る。
本年度までにタンパク質構造を基盤とした人工抗原分子の作成及び評価を完了する予定であり、人工分子の作成、調製および人工分子による抗体誘導試験まで順調に進捗した。本年度得られた免疫血清による毒素中和試験を計画していたが、本試験に用いる試薬の供給規制が厳しくなり、本研究室ならびに共同研究先で充分量の試薬調達に時間を要した。そのため、当初計画から遅延が生じた。なお、次年度に当該試薬を入手できることを確認しており、本予算より購入・支出を計画している。
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