病原真菌の多くは日和見感染症の原因菌として知られ、健常人の皮膚や粘膜などで病気を引き起こすことなく常在している。その一方で、宿主が特定の条件に至ると生命を脅かすほどの重篤な感染症を引き起こす場合がある。私たちは、これまでに「病原性」真菌に対する感染防御にはC型レクチンファミリー分子のDectin-1とDectin-2が必須であることを明らかにしてきた。しかし、健常人に常在する真菌に関しては不明な点が多く残っている。特に、常在真菌が増殖を開始し「非病原性真菌」から「病原性真菌」へ移行する分子機構は大変興味深い。例えば、抗生物質の投与によって真菌感染が顕在化する現象は「菌交代現象」として古くから知られてきたが、その実態は不明なままである。そこで、本研究では常在真菌(非病原性)が病原性を発揮するメカニズムに関し、宿主側因子を明らかにすることを目的として研究を開始した。昨年度は、まず慢性真菌感染症のモデルとして、皮膚Candida albicans(C. albicans)感染症のマウスモデルを確立した。この皮膚C. albicans感染モデルでは、感染2日後に炎症性細胞の浸潤とC. albicansの増殖が認められるが、7日後に自然治癒する。このモデルを用い、種々の抗生物質を投与条件下でC. albicansの感染実験を行った。その結果、特定の抗生物質投与下で有意にC. albicansが異常に増殖し、激しい炎症を伴う皮膚真菌症を発症することがわかった。 また、特定の抗生物質を経口投与することで、マウスの腸管に真菌を定着させることが可能であることが明らかとなった。興味深いことにこの腸管に定着した真菌は全身性の真菌感染に対しては防御的に機能することを見出した。
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