ハッサル小体(HC)は、自己寛容を担うヒト胸腺髄質領域において、角化した髄質上皮細胞塊として観察される特徴的な組織構造である。組織学分野では古くよりよく認知されていたが、その免疫学的な意義はよく分かっていない。最近、HCがヒト遺伝性自己免疫疾患の原因遺伝子として発見されたAIRE依存性に形成されること、HCの過形成がある種のヒト自己免疫疾患で認められるといった報告から、近年改めて注目を集めるに至っている。本研究では、表皮角化細胞の分子マーカーのレポーターマウスを用いてHCを構成する胸腺髄質上皮細胞を純化する方法を確立するとともに、HC過形成自己免疫疾患モデルマウスを用いて胸腺髄質におけるハッサル小体の機能を解析した。その結果、HCを形成する髄質上皮が恒常的に細胞老化を来していること、また遺伝子の網羅的発現解析によってSASP因子と思われる炎症性サイトカインの発現を認めることが分かった。また興味深いことに、HC過形成マウスでは、胸腺内好中球とpDCが恒常的に高い活性化レベルにあること、逆に遺伝的にHCの低形成を呈するマウスではこれら抗原提示細胞の活性化状態が低いことが明らかとなった。また抗Gr-1抗体を投与し好中球をdepletionすると、pDCの活性化が抑制された。これらの結果から、HCの過形成によって胸腺内T細胞が恒常的に活性化される可能性が示唆された。以上、本研究では組織学定義にとどまっていたHCについて、HCを構成する上皮細胞を分子レベルで定義するとともに、その過形が抗原提示細胞の活性化を介して胸腺内T細胞活性化を引き起こし、自己免疫疾患の起点となりうる可能性を提示した(Int Immunol. 2019)。
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