研究課題/領域番号 |
18K19446
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
堀口 安彦 大阪大学, 微生物病研究所, 教授 (00183939)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2022-03-31
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キーワード | 細胞融合 / 気管支敗血症菌 / パラ百日咳菌 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、病原性細菌の宿主特異性の決定機構を遺伝子レベルで解析することにある。この目的を達成するために、ヒトにのみ感染するパラ百日咳菌と広範な哺乳動物種を宿主とする気管支敗血症菌を融合させて、ヒト以外の実験動物に感染するキメラ細菌の作製を試みた。 パラ百日咳菌と気管支敗血症菌にトラ ンスポゾンを用いてゲノムのランダムな位置にそれぞれゲンタマイシンとテトラサイクリン耐性遺伝子を挿入したトランスポゾンライブラリーを作製した。それ ぞれのライブラリーから任意に分離したシングルクローンを融合実験に供した。基本的に、ライソゾームを用いてスフェロプラスト化した菌をポリエチレングリコールで融合するプロトコールで、細菌融合を試みた。その結果、前年度に得られた、ゲノム交雑の可能性を示す候補株をmultiplex PCRやパルスフィールド電気泳動などで解析し、その結果から26株をさらに厳選して(26株)、これらの全ゲノム配列解析を行った。その結果、26株の中には、明らかなゲノムの交雑を示す菌株は見出せなかった。しかし、一方で、4株に一部のゲノム領域の逆位が認められた。これらのゲノム逆位は相互に相同性の高いfhaB遺伝子とfhaSの間で生じており、逆位領域は700 kbpに及んでいた。本研究課題のキメラ細菌の作製とは目的が異なるが、この新知見の現象をさらに探索するため、該当の逆位を検出する簡便な方法を案出し、逆位の発生確率とその細菌性状への影響を解析する新たな研究計画を策定中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
現在まで実施した研究によって得られた融合候補株の解析を進めるにつれ、 1)当初の予想よりも短いゲノム領域で組み換えが生じているらしいこと、2)耐性遺伝子の獲得によらない薬剤耐性化が予想以上に頻繁に生じること,さらに 3)親株の気管支敗血症菌は、継代培養することによって細胞融合とは関係の無いゲノム構造に逆位が生じた変異株が発生することなどが明らかとなり、目的とする気管支敗血症菌・パラ百日咳菌の融合細菌株を得ることができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
目的のキメラ細菌の作製のためには、もう一度、作製ための方法論の再考が必要なため本研究課題期間で終了することが困難である。一方で、本研究において発見したゲノムの大規模な逆位は、本研究の副次的な知見として今後の探索が必要である。次年度は繰越予算を利用して、このゲノム逆位の簡便な検出方法の開発と、逆位の出現頻度について検討を続けることとする。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究実績の概要で述べたように、回収できた菌株のゲノム解析の結果、期待した細胞融合によるキメラ細菌と考えられる株が得られていないことが判明した時点で、さらなる解析のために必要な共同研究がSARS-Cov2の世界的流行のために中断を余儀なくされた。このため予定した実験を実施することができず次年度への繰越予算が生じた。今後はキメラ細菌の作製に向けては根本的な方法論の再考が必要であり、これを予算残額で賄うことは難しい。そこでキメラ細菌の作製は一旦中断し、本研究課題で発見したゲノム逆位細菌の解析に予算残額を支弁する。この解析の成果は、のちのキメラ細菌作製方法の再検討に役立つものと考えている。
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