研究課題/領域番号 |
18K19449
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
本田 知之 大阪大学, 医学系研究科, 准教授 (80402676)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | レトロエレメント / ウイルス / 免疫 |
研究実績の概要 |
ウイルスはそれ単体では増殖することが出来ず、宿主細胞の様々な機構と相互作用し増殖する。一方、宿主側もウイルスの様々な因子と相互作用し、抗ウイルス防御を行なっている。この宿主-ウイルス間相互作用は、様々な病態を引き起こし、多彩な生命現象の原動力と言えるが、必ずしもウイルス感染細胞でのみ認められるものではない。ヒトをはじめとする様々な生物ゲノムには、レトロエレメントと呼ばれるウイルス様エレメントが存在する。宿主は、それに対して、常時抗レトロエレメント防御を行っている。このレトロエレメント-宿主相互作用は、すべての細胞において常時バックグランドで起動されているにも関わらず、従来の生命科学研究では注目されてこなかった。本研究では、レトロエレメント-宿主間相互作用の生物学的意義を明らかにする。 本年度の研究においては、主に培養細胞系を用いて、以下に示す結果を得た。 (1)生薬ライブラリーをスクリーニングし、新規のレトロエレメント転移活性阻害剤として、カプサイシンを見出した。さらに、カプサイシンがレトロウイルスの逆転写酵素を阻害することも見出した。カプサイシンを含む漢方である小青竜湯にも、レトロエレメントを阻害する活性があることを確認した。 (2)カポジ肉腫関連ヘルペスウイルス(KSHV)が、レトロエレメントの転移活性を促進していることを見出した。この活性化にはKSHVのvFLIPが関与することが明らかとなった。このレトロエレメント制御の破綻は、KSHVによる発がん過程に関与することが考えられた。 このように本年度は、レトロエレメント-宿主間相互作用について、概ね順調に解析を進めることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題全体の研究計画では、4つの小課題を提案していた。 4つのうち2つが双生児検体を用いた解析で、2つが培養細胞を用いた研究である。本年度は、このうち後者の培養細胞の解析が想定以上に進展した。その結果、私たち独自のレトロエレメントの活性制御方法の開発についての論文と、ウイルス感染によりレトロエレメント制御が破綻し、発がんに至るという新しい仮説を提唱した論文という2報の論文として成果が現れた。一方、前者については解析に着手しているが、その解析手法について試行錯誤の段階であり、目に見えた成果は未だ出ていない。 全体として、当初の計画より若干の変更点はあるが、大きな追加データがあり、本研究の目的達成に向けて当初の計画通り、概ね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度に得られた結果をもとにして、さらに培養細胞系を用いた研究を進める。一方で、平成30年度にはあまり成果を得ることができなかった双生児研究については、解析手法の確立という土台作りを重視し、その中でレトロエレメントとヒト表現型との連関を探索したいと考えている。以下に2つの方向性について具体的な展望を示す。 (1)レトロエレメント-宿主間相互作用破綻による病態として、がんウイルスによる発がん過程のメカニズム解明をさらに進める。一方で、レトロエレメント-宿主間相互作用がウイルス感染に与える影響の解析も行うことで、レトロエレメント-宿主間相互作用のウイルス感染病態における生物学的意義を明らかにする。 (2)レトロエレメント-宿主間相互作用のヒト表現型解析のためには、レトロエレメントの発現パターンの解析手法の確立が最重要課題である。現在までに収集した1個人における経時的な検体を含めて解析することで、個体内変動と双生児間変動、他人間変動の程度の違いを明らかにする。それにより、どの程度の変動を生物学的な違いとするかを決定し、ヒト表現型の探索につなげる基盤知見とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の予定では、双生児研究についてRNA抽出やそのシークエンス解析などを行うため、消耗品費を計上していた。しかし、既に得ていた次世代シークエンス解析データを用いた予備検討で、レトロエレメント解析手法の開発の試行錯誤に終始してしまい、多検体を扱う段階まで進むことができなかった。 来年度では、現在までに収集した経時的な検体を中心に、本年度予定していた多検体についてのRNA抽出やシークエンス解析を行う予定である。その後、得られたデータについて培養細胞系で検証実験を行う。
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備考 |
本研究の一端を、一般市民を対象に、2018年11月17日に阪大共創DAY@EXPOCITY「大阪大学とあそぼう」で紹介した。
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