ウイルスはそれ単体では増殖することが出来ず、宿主細胞の様々な機構と相互作用し増殖する。一方、宿主側もウイルスの様々な因子と相互作用し、抗ウイルス防御を行なっている。この宿主-ウイルス間相互作用は、様々な病態を引き起こし、多彩な生命現象の原動力と言えるが、必ずしもウイルス感染細胞でのみ認められるものではない。ヒトをはじめとする様々な生物ゲノムには、レトロエレメントと呼ばれるウイルス様エレメントが存在する。宿主は、それに対して、常時抗レトロエレメント防御を行っている。このレトロエレメント-宿主相互作用は、すべての細胞において常時バックグランドで起動されているにも関わらず、従来の生命科学研究では注目されてこなかった。本研究では、レトロエレメント-宿主間相互作用の生物学的意義を明らかにする。 本研究全体で、以下に示す結果を得た。 (1)ワクチン接種時に、特定の内在性レトロウイルス配列(MaLR)の発現が増加すること、その配列は免疫刺激がないときに自然免疫系の活性化を抑制していることを明らかにした。 (2)カポジ肉腫関連ヘルペスウイルス(KSHV)が、レトロエレメントの転移活性を促進していることを見出した。このレトロエレメント制御の破綻は、KSHVによる発がん過程に関与することが考えられた。 (3)レトロエレメントLINE-1のアンチセンスプロモーターを活性化することで、細胞増殖に関わる遺伝子発現が影響を受け、細胞増殖が亢進することが明らかとなった。 このように本研究全体として、レトロエレメント-宿主間相互作用について想定以上の成果を挙げることができた。
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