研究課題
ナルコレプシーはオレキシンを産生するニューロンが消失し、オレキシンが枯渇することによって睡眠発作を主体とする神経疾患である。ナルコレプシーの患者のほぼ100%が、ヒトの主要組織適合抗原(MHC)クラスIIのHLA-QB1*0602(DQ0602)アリルを持っており、オッズ比が320にもなる。しかし、なぜナルコレプシーの発症にHLADQ0602が必要なのかは依然として不明である。HLA(MHC)は、T細胞にペプチド抗原を提示することで、免疫応答の中心的な役割を担っているが、我々はHLAクラスII分子にはペプチドを提示するだけでなく、細胞内のミスフォールドしたタンパク質を細胞外へ輸送するというシャペロン様の機能を発見した。さらに、HLAクラスII分子によって細胞外へ輸送されたタンパク質は、様々な自己免疫疾患で産生される自己抗体の標的になっていることや、HLAクラスII分子による疾患標的分子の輸送能はHLAクラスIIアリルによる疾患感受性と強い相関が認められることをから、HLAクラスII分子のシャペロン様機能が自己免疫疾患に関与していると考えられる。そこで、ナルコレプシーにおいてもオレキシン・HLAクラスII複合体が疾患発症に関与しているかの解析を目的として研究を実施した。その結果、オレキシンもナルコレプシーに感受性のアリルであるHLA-DQ0602と複合体を形成することが明らかになった。一方、非感受性のアリルでは弱い複合体の形成しか認められなかった。また、HLA-DQ0602とオレキシンの産生細胞の培養上精にはオレキシンとHLA-DQとの複合体が検出された。以上より、ナルコレプシーの患者においてはHLA-DQ0602とオレキシン複合体に形成による細胞毒性やオレキシンレセプターとの相互作用がオレキシン産生細胞の生存に関与している可能性が考えられた。
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