研究課題/領域番号 |
18K19451
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
西野 邦彦 大阪大学, 産業科学研究所, 教授 (30432438)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2022-03-31
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キーワード | 異種細菌 / 腸内細菌 / インドール / 検出 / tnaAB |
研究実績の概要 |
人体には、自身の細胞数の約10倍にあたる数の細菌が生息しているが、これまでの細菌学では、歴史的に、シャーレを用いて単一種の細菌を分離する純粋培養にもとづく解析がほとんどであったため、異種細菌間の競合・協調についての理解が進んでいない。本計画は、異種細菌間の情報伝達ネットワークを同定して、ネットワークを形成している分子と、情報伝達物質や宿主環境に存在する物質との相互作用を明らかにし、異種細菌間の競合・協調の機構や、そこに存在する物質の検出・同定を目指すものである。 今年度は、腸内等の異種細菌が存在する環境の中で、インドール産生菌を判別するための技術開発に取り組んだ。細菌が産生するインドールはトリプトファンに由来するシグナル分子であり、細菌の呼吸ガスに存在する。インドールは、細菌の増殖に影響を与えるだけでなく、炎症へのプラスの効果や病原体からの保護など、人間の健康にも影響をおよぼす。細菌が産生するインドールを分析するには、その収集と検出が必要である。従来の方法では、サンプルからインドールを抽出する必要がある。今年度の研究では、細菌から直接ガス含有量を特定する可能性を考えその方法を確立し、遠心分離や抽出を必要とせずに細菌種やその遺伝型の違いを区別することを目的とした。液体培養物の上に配置された吸収シートを使用して、細菌から直接ガス含有量を収集することができた。分析にはGC-MSを使用した。結果は、野生型大腸菌のインドールに起因する明確なピークを示す一方で、トリプトファンからインドールを産生するのに関与するタンパク質TnaABをコードする遺伝子を欠損させた株からは検出されなかった。インドールは、低nmol範囲で存在することが測定された。この方法は、細菌ゲノムにtnaAB遺伝子が含まれているかどうかを識別でき、細菌培養物からガス化合物を迅速かつ簡単に収集するために使用できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、腸内等の異種細菌が存在する環境の中で、一部の細菌が産生して、情報伝達物質としても利用するインドールについて、従来の抽出や濃縮に頼らない方法で検出することを試みた。その結果、液体培養物の上に配置された吸収シートを使用して、細菌から直接ガス含有量を収集することができ、GC-MSの結果は、野生型大腸菌細胞(MG1655およびMC4100株)のインドールに起因する明確なピークを示す一方で、トリプトファンからインドールを産生するのに関与するタンパク質TnaAおよびTnaBをコードする遺伝子を欠損させた大腸菌株からは検出されず、観察されたインドールは、低nmol範囲で存在することが測定された。この方法は、細菌によるインドール産生を識別でき、細菌培養物からガス化合物を迅速かつ簡単に収集するために使用できる。今年度は、新型コロナウイルス感染拡大防止に伴う緊急事態宣言の影響で実験を進めることができない期間もあったが、研究はおおむね順調に進展していると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
これまでインドールは細菌検出の指標としても用いられてきたが、細菌の増殖に影響を与えるだけでなく、炎症へのプラスの効果や病原体からの保護など、人間の健康にも影響をおよぼす。また、異種細菌間でのシグナル分子としても利用されていることが知られており、今後、インドールも含めたシグナル分子がどのような経路で細菌の細胞質内から外に放出され、その後、どのような機構で他の細菌の遺伝子発現等に影響をおよぼすのか、これらの機構を明らかにする必要がある。また、腸内環境の適応に腸内細菌科の排出ポンプが重要な役割を果たすことが分かりつつあり、これらポンプの細菌恒常性への影響についても解析を進める必要があると考えている。また、これらをターゲットとして、細菌恒常性を破綻させることのできる創薬にもつなげていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染拡大防止のため、緊急事態宣言下で実験計画が延びたため、研究期間の延長の必要性が生じた。
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