研究実績の概要 |
人体には、自身の細胞数の約10倍にあたる数の細菌が生息しているが、これまでの細菌学では、歴史的に、シャーレを用いて単一種の細菌を分離する純粋培養にもとづく解析がほとんどであったため、異種細菌間の競合・協調についての理解が進んでいない。本計画は、異種細菌間の情報伝達ネットワークを同定して、ネットワークを形成している分子と、情報伝達物質や宿主環境に存在する物質との相互作用を明らかにし、異種細菌間の競合・協調の機構や、そこに存在する物質の検出・同定を目指すものである。 今年度は、腸内細菌科に属する複数の細菌がどのようにして脂肪酸の存在する環境で生存できるのか、その機構を明らかにする目的で、研究を進めた。脂肪酸は、静菌作用や殺菌作用を発揮し、細菌の増殖や生存を抑制する。細菌は、これらの抗菌効果を克服するために、未定義のメカニズムによって環境に適応している。グラム陰性菌では、薬物排出系が様々な物質に対する耐性と関連していることが知られており、これまでの研究により大腸菌やサルモネラにおいて複数の排出系が同定されている。本研究では、これらの細菌の脂肪酸耐性に薬物排出系が寄与しているかどうかを調べた。サルモネラおよび大腸菌の薬物排出トランスポーターの欠失株と過剰発現株を用いて、脂肪酸に対する感受性を測定した。その結果、サルモネラではacrAB, acrEF, emrAB, tolCが脂肪酸に対する抵抗性に寄与することが明らかとなった。さらに、TolCとともに機能することが知られているEmrABは、TolCとは独立した形サルモネラの脂肪酸耐性に寄与しているが明らかになった。注目すべきは、通常、EmrABはTolC依存的に抗菌薬耐性に関与しているが、脂肪酸耐性には、TolC非依存的に関与していることが判明し、EmrABによるTolC利用が基質依存的であることが示されたことである。
|