研究実績の概要 |
前年度の研究で同定された共有TCR(HLA交差性TCRの候補レポジトリ)の構造生物学的特徴を以下の方法で解析した。 1)CDR3領域に用いられているアミノ酸配列の特徴 2)使用されているTRB遺伝子Vセグメント・Jセグメントの頻度 その結果、共有TCRでは、共有頻度の低いTCRと比較した際、CDR3領域を構成するアミノ酸数が有意に少ないことが判明した。一方、TRBV, TRBJの使用頻度については、それぞれ上位3位はほぼ共通しており(V20-1, V28, V29-1およびJ2-7, J2-1, J2-3)、特定の傾向は認められなかった。興味深いことに、これらの高頻度Vセグメント・Jセグメントは健常人由来末梢血T細胞を対象に解析された既報の結果と類似しており、ゲノム上におけるTCR遺伝子再構成の物理生物学的特徴を反映しているものと推測した。ついで、これらの共有TCRの中からCMVウイルス由来抗原を認識する76クローンを同定し、同様の解析を行った。CDR3配列長は11~16残基の間に分布しており、通常のT細胞集団全体におけるCDR3配列と比較して短い傾向が確認された。また、高頻度セグメントであるV20-1, V29-1を使用しているクロノタイプは見出されず、V7ファミリーの使用が多いなど、V-Jセグメントの組み合わせにも固有の特徴が見られた。 なお、前年度に引き続き、HLA-B7拘束性のCMV反応性TCR2クローンが認識するエピトープのin silico推定を試みたが、現在までに開発されたアルゴリズムでは同定に至らなかった。今後、エピトープが同定されたTCRを、ウイルス・悪性腫瘍に対する遺伝子改変T細胞療法に活用するため、任意のTCRカセットをゲノム編集技術を用いてヒト由来T細胞に導入する新規技術を開発した(特許出願中)。
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