研究課題
マラリアによる死者は全世界で年間40万人にものぼる。耐性原虫の出現により、新規マラリア薬の開発が急務である。赤血球に感染した熱帯熱マラリア原虫は多重の膜に包まれた特有の寄生環境を作り出す。そのため膜間輸送に関わる膜タンパク質は重要な薬剤標的である。しかし技術障壁のため原虫膜タンパク質の研究は進んでいない。また原虫は独自のタンパク質分子を進化させており、アミノ酸配列から機能を予測することは困難である。そこで本研究はマラリア原虫タンパク質を高い成功率で発現することが可能な、世界で唯一の発現系である「コムギ胚芽無細胞タンパク質合成系」を用いて、マラリア原虫膜タンパク質発現をおこなう。続いて新規薬剤標的の同定を目的に、膜変形・小胞形成タンパク質と、物質輸送に関するチャネル・トランスポーターの同定を行う。リポソーム共存下でマラリアタンパク質をコムギ無細胞系によって発現させ、その形状を蛍光顕微鏡を用いて観察した。その結果、リポソーム膜上に局在するタンパク質を同定することができた。リポソーム形状変化を起こすタンパク質は、マラリア原虫独自の膜系の形成に深く関与していることが予測されるため、抗マラリア化学療法剤ターゲットとして有用な可能性が高い。また薬剤標的として有用な膜酵素をリポソーム共存下で合成することで、機能分子の発現を試みた。今後は合成に成功した膜タンパク質の機能的な解析をすすめる予定である。
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