研究課題/領域番号 |
18K19457
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
鈴 伸也 熊本大学, ヒトレトロウイルス学共同研究センター, 教授 (80363513)
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研究分担者 |
日吉 真照 国立感染症研究所, 血液・安全性研究部, 主任研究官 (40448519)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | tunneling nanotubes / HIV-1 / 細胞間伝播 |
研究実績の概要 |
エイズウイルスHIV-1は薬剤で抑えられるものの、薬剤耐性ウイルスの出現が問題となっている。その為に、HIV-1の分子ではなく、宿主分子を標的にしてHIV-1を抑える試みが期待されている。実際、HIV-1受容体CCR5を標的にHIV-1の細胞への侵入を阻害する薬剤で成功している。従って、このアプローチは今後も進める意義があり、加速するには新たな標的宿主分子の同定も重要である。一方で近年、HIV-1とtunneling nanotubes(TNT)と呼ばれる、遠隔の細胞同士を物理的に連結する細長い細胞膜突起との密接な関係が明らかとなってきた。例えばHIV-1がTNTを介してCD4+ T細胞間を伝播する事や、HIV-1がマクロファージでTNT形成を促進し、このTNTを通ってウイルス蛋白質が移動したB細胞での免疫グロブリンのクラススイッチの障害が報告されてきた。従って、TNT阻害がHIV-1感染拡大の抑制に有効と期待される。しかし、多数の分子の関与が予想されるTNT形成過程には未解明の部分が多く、TNT形成の特異的阻害法も確立されておらず、TNTを介した細胞間伝播が全体のどれ位を担うのかは全く不明であった。本研究では、TNT形成に重要な宿主タンパク質M-Secに着目し、そのノックダウンを中心に解析を行った。その結果、M-Secノックダウンにより、TNT形成だけでなく、HIV-1の産生量が低下すること、特に感染初期の段階で激減(10%程度にまで)することを見出した。これら結果が、遺伝子ノックダウンによる副次的な影響でないことは多面的な解析で確認してきた。以上から、TNTがHIV-1の細胞間伝播、特に初期の伝播に重要であることが確実に確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の研究から、宿主タンパク質M-SecがTNTの形成、そしてそれらを利用したHIV-1細胞間伝播において重要な役割、特に初期の細胞間伝播に中心的な役割を果たすことを改めて確認することができた。一方、M-Secの下流分子、特に低分子GTPase群について解析を進めたところ、複数の細胞種で低分子GTPaseがM-Sec同様、HIV-1細胞間伝播に重要なことは確認できたものの、細胞によって重要な低分子GTPaseの種類が異なると言う、新たな可能性も見出している。そのため、次年度は更に詳細な解析を進めることが重要となった。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究により、宿主マシーナリ-を標的にしたTNT形成阻害がHIV-1感染拡大の抑制、ひいては薬剤耐性HIV-1の軽減につながり、そしてこの研究は他の病態の克服にも有用と期待される。一方、実際に臨床に還元するには更に一段、研究を高める必要がある。つまり、酵素活性を持たないM-Secに代わって最適標的となる宿主分子の同定が求められる。この点を踏まえて本研究では、HIV-1がTNT形成を促進する分子メカニズムの全容解明を試みる。我々ははその為の有用な発見、つまり、HIV-1感染細胞ではM-Secが細胞頭頂部に異常集積し、まさしくその部位からTNTが伸長する事を見出している。従って、共免疫沈降・質量分析でM-Secと複合体を形成する蛋白質群を探索してノックダウンによってvalidationするだけでなく、それらが偏局在M-Secと共局在するかも免疫染色で解析し、更には我々が同定してきたM-Sec機能阻害化合物NPD3064をツールとして応用すれば、オリジナルかつ成功する確率が高いアプローチができる。初年度の研究からM-Secのノックダウンによっても、TNTの形成そしてHIV-1の初期伝播の大幅な低下が認められたため、先のNPD3064を応用した解析系と併用することで、より確実に結論する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
分担者(国立感染症研究所 日吉真照)が研究計画を遂行するにあたり、必要な試薬等を既に所有していたため、研究費の適正および有効な使用を考え、次年度の研究に使用することとしたものである。分担者の次年度の研究計画は、以下の通りであり、次年度使用分と合わせ、確実に遂行する。「M-SecをノックダウンしたHTLV-1感染細胞を移植したヒト化マウスで、ウイルス産生が低下する事を見出しているので、同じ系で、RalA阻害化合物BQU57などのin vivo抗ウイルス効果も評価する。」
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