研究課題/領域番号 |
18K19460
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研究機関 | 自治医科大学 |
研究代表者 |
加藤 大智 自治医科大学, 医学部, 教授 (00346579)
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研究分担者 |
崔 龍洙 自治医科大学, 医学部, 教授 (50306932)
渡邊 真弥 自治医科大学, 医学部, 准教授 (60614956)
山本 大介 自治医科大学, 医学部, 講師 (90597189)
水島 大貴 自治医科大学, 医学部, 助教 (50843455)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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キーワード | 吸血昆虫 / 腸内フローラ / サシチョウバエ / ハマダラカ / リーシュマニア原虫 / マラリア原虫 |
研究実績の概要 |
吸血昆虫の中腸は、吸血によって哺乳類から取り込まれた病原体が、はじめて遭遇する昆虫の体内環境であり、哺乳類から昆虫へのダイナミックな環境変化に適応して生存できるか否かが決定する場である。本研究では、中腸の環境形成に大きな役割を担う腸内フローラが、病原体の生存・発育に影響を及ぼし、吸血昆虫の病原体媒介能を決定する因子となるのかについて解析する。本年度の研究実績の概要は以下の通りである。 1)希少糖を投与してマラリア原虫媒介能が低下したハマダラカと通常のフルクトースを投与したハマダラカの腸内フローラを、次世代シークエンス解析で比較した。 2)希少糖を投与したハマダラカの腸内細菌の分離を試みた。現時点では次世代シークエンス解析でコントロールとの差が見られた細菌を単離することができていない。 3)エクアドルとペルーに分布するリーシュマニア原虫媒介能の異なる同種のサシチョウバエの腸内フローラの比較解析を行った。 4)コロニー飼育しているサシチョウバエの腸内フローラの解析を行ったところ、野外のサシチョウバエと比較して、細菌種が非常に少ないことが分かった。 5)サシチョウバエの人工吸血系を確立し、これを用いた様々な実験系の樹立に着手している。 6)南米に分布するサシチョウバエLutzomyia longipalpisを入手し、コロニー飼育を開始した。このサシチョウバエにはLeishmania majorが効率よく感染することが分かった。 7)サシチョウバエに希少糖を投与してリーシュマニア原虫媒介能への影響を検討したが、通常の糖との差は見られなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
希少糖を投与してマラリア原虫媒介能が低下したハマダラカと通常のフルクトースを投与したハマダラカの腸内フローラを、次世代シークエンス解析で経時的に比較したところ、いくつかのポイントで異なる腸内細菌の存在が確認された。差異のあった細菌を分離し、それを投与することで原虫媒介能の変化が再現できるか試みようとしているが、現時点では目的とする細菌は分離できていない。培養条件を検討する必要があるかもしれない。 サシチョウバエに関しては、次世代シークエンス解析を用いて、エクアドルとペルーに分布するリーシュマニア原虫媒介能の異なる同種のサシチョウバエの腸内フローラを比較解析した。サシチョウバエの生息地域と細菌フローラの相関について明らかにすることができ、この解析結果については論文投稿準備中である。この相違がどのように原虫媒介能に関与しているのか、コロニー飼育しているサシチョウバエを用いて検討する予定である。一方、昨年から行ってきたサシチョウバエへのリーシュマニア原虫感染系であるが、原虫の株を変えたり吸血条件等を検討したりして、ようやく安定して感染を行うことができるようになった。サシチョウバエからマウスへの感染についてはさらなる検討を要する。サシチョウバエにおいても、ハマダラカのように希少糖によって原虫媒介能に変化が見られるか検討したが、予想とは異なり差異が認められなかった。希少糖の効果は、原虫媒介性吸血昆虫一般に認められる現象ではなく、ハマダラカとマラリアに特異的なものかもしれない。また、南米に分布するサシチョウバエLutzomyia longipalpisのコロニー飼育を開始し、このサシチョウバエにはLeishmania majorが効率よく感染することが分かった。このサシチョウバエは、自然界でL. majorのベクターとはなっていないが、サシチョウバエの原虫媒介能を検討する上では1つのモデル実験系として活用できると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
1)腸内フローラの攪乱に伴う原虫媒介能の変化の検討 抗生物質等で腸内細菌を攪乱させたハマダラカ、サシチョウバエを用いて原虫媒介能がどのように変化するのか、それにはどのような細菌が関与しているのかについて検討する。 2)腸内フローラの置換に伴う原虫媒介能の変化の解析 サシチョウバエの幼虫期はいわゆるウジで、動物の糞などを餌にして育つ。腸内フローラの形成は幼虫期の環境や食餌の影響を受けると考えられるため、異なるエサを用いて飼育したサシチョウバエの成虫の腸内フローラの変化と、それらの中腸での原虫の生存・発育、さらには原虫媒介能の変化を比較解析する。サシチョウバエの幼虫のエサは、世界中どこでもウサギのエサと糞をベースに作られたものが用いられている。それ以外のエサで飼育・維持することができるのか、非常にチャレンジングであるが、自然界では自然環境によって様々なエサで生育しており、腸内細菌叢の置換には非常に効率が良い方法であると考える。 これらの実験によって、腸内フローラの攪乱や置換が、原虫の生存・発育や原虫媒介能にどのように影響を及ぼすのか明らかになることが期待される。
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次年度使用額が生じた理由 |
サシチョウバエへのリーシュマニア原虫感染実験が思うように進まず今年度の実験の進展が若干遅れていること、次世代シークエンス解析に予定していた費用を抑えることができたことなどから、次年度使用額が生じた。サシチョウバエへの感染実験もようやく安定してきたことから、次年度は本年度予定していた実験・解析を早急に進めていきたいと考えている。
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