研究課題
自己抗体が主因である自己免疫疾患は多いが、本来自己寛容が成立している個体免疫系において、どうして自己反応性のB細胞が活性化し抗体産生に至るのか、未だ解明されていない。慢性自己免疫疾患における長期的な自己抗体産生を説明するには、自己抗体を産生する長期生存形質細胞や自己反応性の記憶B細胞の存在が必要となる。これらB細胞記憶は、基本的には胚中心(GC)反応を経て形成される。最近、先に活性化した自己反応性GC-B細胞によって他の自己反応性B細胞の自己寛容が破られる、脱寛容の伝播というべき現象が見出された。この現象は、自己免疫疾患の発症と進展、特に自己抗体の種類が変遷する現象(epitope spreading)を良く説明する。この現象を自己免疫自然発症マウスで証明し、そのメカニズムを解明することにより自己免疫疾患の発症機構の解明に繋げることを目的として研究を進めている。本年度は脱寛容の伝播が自己免疫疾患の原因であるか検証するために、IgA腎症を高頻度に自然発症するgddYマウスを詳細に解析した。まず、gddYマウスの血清中に、腎糸球体の複数のタンパクに結合するIgA抗体が加齢とともに出現すること、gddYマウスの腎臓にIgA陽性の形質細胞が浸潤してくること、その形質細胞から産生される抗体も何らかの糸球体タンパクに反応することを見出した。以上より、gddYマウスがIgA型自己抗体の産生を伴う自己免疫疾患モデルであることが初めて裏付けられた。さらに、若齢期からの抗生物質投与により腸内細菌を死滅させると、腎糸球体へのIgAおよびIgG抗体の沈着が抑制された。このことから、腸内細菌によって活性化された免疫系が抗糸球体自己抗体の産生に関与していることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
病理所見と経過がヒトのIgA腎症と非常によく似たマウスモデルであるgddYマウスを解析することにより、IgA腎症の主な病理所見である腎糸球体への自己抗体の沈着が、腸内細菌の存在に依存するという結果を得た。このことは、腸内細菌に反応して活性化したB細胞によって自己反応性B細胞の寛容が破られた可能性を示唆している。したがって、これを明らかにすることにより、gddYマウスは、epitope spreadingが自己免疫疾患の原因であるかどうかを解明する良いin vivoのモデルとなると思われる。
gddYマウスはその脾臓細胞の移植により正常マウスにIgA腎症を再構成できる。脾臓細胞移植の後、レシピエント由来のIgG抗体がIgAと共に腎臓に沈着しているか、レシピエント由来のB細胞が脾臓やリンパ節でGCを構成しているか、そのGC-B細胞由来の抗体が自己抗体を含むか等について調べる。また、正常マウス(C57BL/6)を用いて以下のように研究を進める。1.BCR置換法を用いて自己抗原(DNA)特異的BCRを発現させたiGB細胞をマウスに移入する。そしてマウスを免疫しても、このiGB細胞がGC内で増殖せず記憶B細胞へと分化しないことを確認する。記憶B細胞への分化を抑制し、短命の形質細胞への分化を誘導するIgE型BCR自律シグナルがSyk, BLNK, CD19を介することを念頭に、BLNK、CD19やその他のBCRシグナル因子を欠損するDNA特異的iGB細胞をマウスに移入した場合、この細胞がGCで増殖し記憶B細胞やLLPCに分化するか調べる。GCで増殖した場合、レシピエント由来の自己反応性GC-B細胞も寛容を脱して増殖し、自己抗体を産生するか、さらに、epitope spreadingが起こるか調べる。2.B細胞の脱寛容の誘導にはTLR7/TLR9やIFNα-Rを介したシグナルが関与しているとされている。レシピエントB細胞への脱寛容の伝播にも同様の受容体やそのシグナルが必要か、また、T細胞ヘルプが必要かについて、該当する遺伝子欠陥マウスをレシピエントとした場合、レシピエント由来の自己反応性B細胞の出現が抑制されるかを検証する。
(理由)試薬の使用量が予想より少なく、予定していた追加の購入を控えることとなった。(使用計画)2019年度の試薬の追加購入、および、消耗品、マウス等の新規購入、研究発表旅費・参加費、論文発表費用に使用する。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 4件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 3件、 招待講演 3件)
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