研究課題
本研究は、「CD69」というT細胞の動態システムに重要な働きをする分子に着目し、新しい抗腫瘍免疫療法の確立を目指したものである。「CD69を発現する腫瘍特定的なT細胞は、腫瘍内に留まることで、継続的に腫瘍抗原の刺激を受け取った結果、疲弊が誘発されるのではないか?」との仮説のもと、「CD69抗体投与は、腫瘍特異的なT細胞が腫瘍内に留まるのを抑制することで、T細胞の疲弊を防ぎ、T細胞の活性化能を保持させる効果があるのではないか?」と考え、研究を進めてきた。平成30年度は、4T1乳がん細胞, CT26大腸がん細胞, A20悪性リンパ腫, SCCVII扁平上皮がん細胞などを用いて、担がんマウスを作成し、CD69欠損による効腫瘍効果を解析した。いずれのがん細胞株においても、CD69欠損による抗腫瘍効果の亢進が観察された。また抗CD69抗体投与による抗腫瘍効果の亢進も、4T1乳がん細胞, CT26大腸がん細胞を用いた担がんマウスにおいて確認された。さらには、抗PD1抗体と抗CD69抗体の併用による相加効果がみられることも分かった。この結果は、CD69の作用点が、従来の免疫チェックポイント阻害剤とは異なる点であることを示唆するものである。さらに、CD69を標的とした抗腫瘍効果の分子機構としては、CD69の機能を抑制することで、腫瘍浸潤CD8T細胞の疲弊を抑制できることが判明した。CD69分子の腫瘍内リガンドを同定する目的で、炎症組織におけるCD69のリガンドとして私たちが同定したMyosin light chain 9, 12a, 12b(Myl9/12)が、CD69の腫瘍内リガンドになり得るかを解析したところ、Myl9/12の発現は腫瘍の実質にみられることが判明した。この結果は、腫瘍においてもMyl9/12がCD69のリガンドとして働いていることを示唆するものである。
2: おおむね順調に進展している
当初予定していた通り、複数の腫瘍株を用いてCD69の機能阻害による抗腫瘍効果を確認することができた。CD69を標的とした抗腫瘍効果の発揮メカニズムとして、CD69の機能を抑制することで、細胞障害性CD8T細胞の疲弊を抑制できることが、複数のがん細胞株を用いた実験から判明した。さらにCD69分子の腫瘍内リガンドとして、炎症組織におけるCD69のリガンドとして私たちが同定したMyosin light chain 9, 12a, 12b(Myl9/12)が、腫瘍内の実質に発現していることがわかった。以上の結果から、当初の予定通りに研究は進展しているといえる。
2019年度は、がん免疫療法の治療ターゲットとしてのCD69分子の作用メカニズムに着目し、引き続き研究を進めていく。CD69欠損担がんマウスモデルを用いて、CD69抗体単独と、免疫チェックポイント阻害剤併用時の腫瘍浸潤T 細胞の性質、機能の違いについて、細胞の疲弊度に着目しながら解析を進める。また同時に、抗CD69抗体による抗腫瘍効果について、複数の腫瘍株を用いた研究を行い、免疫チェックポイント阻害剤との作用点の違いについて、より詳細な解析を行っていく。CD69floxマウスを用いることで、腫瘍浸潤リンパ球のうち、どの細胞の発現するCD69が特に重要なのかを明らかにする。一方、CD69分子は細胞表面に発現する膜タンパクであり、なんらかのリガンドが存在することが想定される。2018年度の研究成果から、腫瘍内CD69リガンドの候補としては、2016年に私たちが同定したMyl9/12があげられた。そこでCRISPR-Cas9システムを用いてMyl9/12欠損腫瘍株等を作成し、腫瘍浸潤T細胞の抗腫瘍効果への影響を解析する。またMyl9/12欠損腫瘍株を免疫不全マウス、並びに野生型マウスに移植し、Myl9/12欠損腫瘍株に増殖の違いが見られるかを明らかにする。そうすることで、腫瘍由来のCD69リガンドが、積極的に腫瘍浸潤T細胞の疲弊誘導に関わっている可能性について検証する。これらの研究を通して、腫瘍浸潤T細胞が疲弊に陥る分子機構、その分子機構へのCD69分子の関わり、腫瘍側の免疫システム逃避の新規のメカニズムを明らかにする。そして、抗CD69抗体を用いた新たながん免疫療法確立に向けた基礎データの蓄積に励む。
すべて 2019 2018 その他
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 2件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 4件、 招待講演 5件) 備考 (1件)
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