研究課題/領域番号 |
18K19482
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
田中 伸之 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 助教 (60445244)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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キーワード | 腎細胞癌 / ライトシート顕微鏡 / 膨張顕微鏡法 / 分子標的治療 / 免疫治療 |
研究実績の概要 |
本研究は、次世代イメージング「ライトシート顕微鏡・膨張顕微鏡法」が立体視する腫瘍内不均一性に基づく、腎がん分子標的治療(特に免疫治療:抗PD-1/PD-L1療法)の感受性予測モデルを、世界で初めて提唱する。同一腫瘍内でも全ての癌細胞は異なったトランスクリプトームを持ち、治療中の癌微小環境では生存に最適なサブクローンが選択される。この腫瘍内不均一性のプロファイル解明は、癌根絶のみならずバイオマーカー研究としても喫緊な課題である。特に免疫治療の医療費は高額であり、医療財源の観点からも治療最適化が望ましい。最新のライトシート顕微鏡による癌組織の可視化は、全てがシングルセルレゾリューションで立体的に再現される。一方、膨張顕微鏡法も、光学顕微鏡の回折限界を乗り越える最新の研究手法である。2019年度は、この技術基盤としてライトシート顕微鏡を利用した新規3次元イメージングパイプライン:DIIFCO(diagnosing in situ hybridized and immunolabeled fresh or fixed cleared organs)法を考案・整備した。組織透明化法に独自の免疫染色・in situハイブリダイゼーション法を組み合わせることで、腫瘍の立体構造が保持されたまま、3次元画像において高解像度なシングルセルカウント・タンパク/RNA発現の同時解析が可能となった。不均一な上皮間葉転換の空間分布や血管からの距離を含めた細胞ニッチの3次元構造もミクロなレベルで可視化され、微小環境における癌幹細胞ニッチ詳細を明らかにする新規癌イメージングとして、臨床応用を視野に入れた将来の活用が期待される成果となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度は、ライトシート顕微鏡を利用した新規3次元イメージングパイプライン:DIIFCO法を考案・整備に従事した。DIIFCO法は、組織透明化法に独自の免疫染色・in situハイブリダイゼーション法を組み合わせることで、腫瘍の立体構造を保持したまま、腫瘍内に存在する数百~数千万細胞のタンパク/RNAの同時発現解析を1細胞毎に実現した。in situ hybridization法は、特異的な抗体が必要無く、また組織深部への浸透も容易で、3次元イメージングにおける必要性は高い。一方、従来のin situ hybridization法では、RNAを包むタンパクを試薬で分解し、RNAを露出させる必要ある。この操作は、立体的な組織構造の維持が不可欠な3次元イメージング法において、大きな障壁となっていた。本研究では、これまで不明であった腫瘍脈管の立体構造・層構造・および細胞の維持環境である細胞ニッチの立体構造が、DIIFCO法で可視化され、癌微小環境の詳細が視覚的に世界で初めて明らかとなった。即ちDIIFCO法は、本研究で目的とする腫瘍空間における「立体的な腫瘍内不均一性のプロファイル解明」に欠かせないとツールと成り得る。さらに2019年度は、前年度に作成された腎癌組織マイクロアレイを用いた包括的ながん免疫微小環境の可視化を進めた。本マイクロアレイは、空間的な腫瘍中心や対応するinvasive marginを含み、ライトシート顕微鏡・膨張顕微鏡法データの検証を行う上で欠かせない。特異性が担保された独自の評価パネルを用い、免疫組織学的に解析を進めた。腎癌組織への膨張顕微鏡法の適応に備えて、組織膨張化プロトコールの更なる最適化も進めた。
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今後の研究の推進方策 |
従来のがんイメージングは、組織を切片(2次元)化するため、腫瘍内に拡がるITHの空間分布・情報は失われてきた。ライトシート顕微鏡・膨張顕微鏡法は、癌研究への適用自体が極めて革新的である。本研究は、標的分子(免疫応答関連遺伝子等)の立体的な腫瘍内不均一性を、世界で初めて臨床的に意義付け、腎がん分子標的治療における新規バイオマーカーを提唱したい。2019年度は、ライトシート顕微鏡を利用した新規3次元イメージングパイプライン:DIIFCO法の確立を達成した。腎がん組織塊への免疫染色・in situハイブリダイゼーション法と1細胞レベルの高解像度な画像解析システムの適用は、腫瘍内不均一性の解明を新しい視点で可能にする。さらに2019年度は、腎癌組織マイクロアレイを用いた包括的ながん免疫微小環境の可視化も進め、免疫チェックポイント阻害薬の感受性予測を可能にするモデル構築の準備が成された。ライトシート顕微鏡・膨張顕微鏡法データの検証には、これら免疫染色法によるデータの存在が欠かせない。腎癌組織への膨張顕微鏡法の適応に備えて、組織膨張化プロトコールの更なる最適化も進めている。次年度は、まず最新のDIIFCO法を駆使し、抗体染色に依存しないin situ hybridization法の特徴を生かした、腫瘍内不均一性を特徴づける世界初の試みに挑戦したい。具体的には、「シングルセルRANシークエンスで得られる1細胞解析結果を立体的な腫瘍でマッピングし生息ニッチの詳細を検証」である。本目標には、類似研究で進めるシングルセルRANシークエンスの実装が欠かせないが、シングルセルRANシークエンスと次世代イメージングの融合で得られる腫瘍内不均一性プロファイルは学術的に興味深い。最終的に免疫チェックポイント阻害薬の治療効果を照会し、新規バイオマーカーの導出を試みたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度の成果は、研究基盤の整備が主であり、費用が高額な実際の解析は次年度に予定したため。
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