研究課題
癌の進展・退縮および転移には、癌組織内の種々の間質細胞や免疫細胞により構成される癌微小環境や免疫環境の変化が深く関与する。本申請研究は、この癌の進展・退縮および転移に伴い変化する癌組織内の生体反応の解明を目的とし、癌組織の実態を明らかにすることで、癌を拒絶へと導く革新的な治療法を開発することを最終目標とする。本年度は、抗腫瘍免疫を抑制することが知られているIL-23の作用機序を、IL-23またはIL-23レセプターの阻害により解析した。IL-23レセプターノックアウトマウスでは、IL-23ノックアウトマウスより強い肺転移の抑制が見られた。同様にIL-23レセプターの阻害抗体の投与は、IL-23の中和抗体の投与よりも強い高転移作用を示し、これはNK細胞とIFN-γに依存するものの、CD8T細胞やCD4T細胞、活性化Fcレセプター、IL-12には依存しない作用であった。また、このIL-23レセプターの阻害による抗転移作用は、肺におけるIFN-γを産生するNK細胞の増加によるものと示された。従って、IL-23は転移臓器である肺においてIFN-γを産生するNK細胞の誘導を阻害することで、癌の肺転移を増強しているものと考えられる。
2: おおむね順調に進展している
今年度の研究成果として、抗転移作用において重要なNK細胞の肺での機能変化が、癌の肺転移に関与していることが示された。並行して、influenza hemagglutinin (HA)とGFPを発現する4T1乳癌細胞(4T1-HA/GFP細胞)を樹立し、WTマウスに移植後に増殖した癌組織、および免疫チェックポイント阻害抗体(抗CTLA4抗体や抗PD-L1/PD-1抗体)療法に反応して退縮していく癌組織から経時的に癌組織を採取し、CD45発現リンパ球、CD31発現血管内皮細胞、fibroblast activation protein (FAP)発現癌関連線維芽細胞を分離し、それぞれからDNAとRNAを既に抽出している。
癌細胞および、その癌組織内の間質細胞や免疫細胞から得られたDNAおよびRNAを用いて、複数の遺伝子の発現を定量的かつ網羅的に解析する。これにより、腫瘍増殖、免疫による拒絶、免疫抵抗性を獲得しての再増殖に伴う癌組織内の各細胞の遺伝子発現の変化を明らかにする。 この解析により変化が示された分子の発現変化を、順次、RNA array、real time PCR、免疫染色等により確認する。さらに、それぞれの細胞間の変化を関連づける液性因子や細胞表面機能分子、その変化を誘導したシグナル経路を探索する。 既存の分子であれば、トランスジェニックマウスやノックアウトマウスを入手し、新規分子であれば、トランスジェニックマウ スやノックアウトマウスを新規に作製する。これらのマウスに4T1-HA/GFP細胞や他の癌細胞を移植し、その増殖能と免疫治療感受性の変化を調べ、癌細胞と宿主細胞間の反応の癌増殖および抗腫瘍免疫における重要性を検証する。並行して、本年度の研究業績の概要に示したIL-23阻害とIL-23レセプター阻害の結果が異なる原因となっている反応の解析と、これまでの研究結果により発癌、癌増殖、転移、増殖抑制時に発現が変化することが示されている分子の解析を並行して行う。
すべて 2018 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件) 学会発表 (3件)
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